日本で勤務経験もあるハノイ工科大学出身者らが会社設立

横浜のHBLAB JAPANで話すグエン・フィ・ タンさん
――HBLABは、100%日本の企業のためにオフショア開発を手がけています。ライバルには中国やインドの会社も多いと思いますが、ベトナム企業の強みはどんなところにあるのですか。
グエン:ベトナムの会社は、中国やインドに比べると、大きな強みがいくつかあります。まず第1に、日本企業にぴったりの人材が集まっています。ベトナム人はみんな親日的で、日本語を勉強する人も急増しているのです。私自身、子どものころから日本が好きで、ソニーやトヨタなどの日本製品にあこがれ、日本の漫画やゲームで育ちました。そういうエンジニアばかりです。いまベトナムでは日本語が第1外国語になり、小学校から学ぶほどになっています。日本の会社は安心してパートナーを探せるでしょう。
ベトナム企業の強みとして第2に挙げたいのは、開発コストの低さです。中国やインドよりも低いです。日本国内での開発に比べると、コストはだいたい3分の2以上削減することができます。
――技術面はいかがですか。
グエン:技術力はとても高いですよ。ベトナムは国を挙げてIT技術者の育成を進めています。現在、ベトナムのITエンジニアは35万人くらいですが、2020年には100万人に増やす計画です。このため全国の優秀な人材がIT分野に集まってきています。
――ベトナムではオフショア開発の会社が増えていますが、その中で、HBLABはどんな強みを持っているのでしょうか。
グエン:HBLABはベトナムのIT企業の中でも特に高い技術力を誇っています。HBLABのエンジニアのおよそ40%は、ベトナム最高峰の理系大学であるハノイ工科大学の出身者です。ほかのエンジニアも国立大学などを出ています。
私の母校でもあるハノイ工科大学は、特に日本向けに日本語や日本の商習慣を熟知した技術者育成に力を入れています。HEDSPI(Higher Education Development Support Project on ICT)という、日本語のできるIT技術者の育成プロジェクトを進めているのです。私たちHBLABは、このHEDSPIで鍛えられた5人を中心に立ち上げました。社名の「HBLAB」は、Hedspi Brothers Labを略したものです。私たちは、高い技術力で日本との架け橋になりたいと願っています。
日本語や日本の商習慣を熟知した陣容で開発を担当

開発スタッフは日本語や日本の商習慣を学び続けている
――HBLABの起点となったハノイ工科大学のHEDSPIプロジェクトについて、もう少し聞かせてください。
グエン:ハノイ工科大学でHDSPIプロジェクトに参加するためには、学生は大学内の厳しい選考試験を突破しなければなりません。そうやって選抜された学生たちが、まず1年次に日本語とITを勉強します。それから、日本の慶應大学、立命館大学と連携していますので、2年次終了時点で数人が日本に留学できるようになっています。
――グエンさんは、それで慶應大学に留学したのですか。
グエン:はい。2010年に慶應大学の環境情報学部に留学し、卒業後は日本のゲーム会社に就職しました。ゲームを多数やってみて、このゲームはどんなところがいいのか、よくないのか、とことん研究し、新しいものをつくる経験をしました。2年半勤めた後、帰国して2015年5月にHBLABを設立しました。
――日本語がお上手なわけですね。そしてHBLABでは、社員のみなさんが日本語と日本の商習慣について学び続けているそうですね。
グエン:日本のクライアント企業と接する社員は、日本語能力試験(国際交流基金などが共催。初心者レベルのN5から最高難度のN1の5段階で評価)でN2以上を取得しています。橋渡し役のブリッジSEは、日本の会社で働いた経験があるエンジニアばかり。さらに、社員の日本語のコミュニケーションを補完する語学のスペシャリストたちもいます。
お客さまに最高のおもてなしをするために大事なのは、日本語だけではありません。日本の商習慣にきちんと合わせるために、ベトナム本社には、日本人のPM(プロジェクトマネージャー)もいます。彼を中心に、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」など、日本の基本的なビジネスマナーを習得しています。今後、日本法人のHBLAB JAPANにも経験豊かな日本人営業スタッフを迎え、より信頼していただける体制を固めていくつもりです。
新しい技術も素早く習得していく開発陣

「うちは新しい技術の習得が早い」と話すグエンさん
――HBLABの社員についてお話を聞かせてください。
グエン:ハノイには70人の社員がいます。平均年齢は25~26歳くらいで、みんな一生懸命に仕事しています。うちのエンジニアは新しい技術を習得するのが早いですね。たとえば、React Native(Facebookが開発したJavaScriptのフレームワーク)なども2週間ぐらい勉強して、もう使用し始めました。みんな向上心が強いです。いつも新しいことをやりたくて、新しく必要な技術が出てきたら、もう必死になって勉強します。
――一般に、オフショア開発には① クライアントが作った仕様書のとおりに開発する「請負型(プロジェクト型)」と、② 必要人数のエンジニアが一定期間、クライアントの専任チームとして開発に従事する「ラボ型」があります。HBLABの場合、後者のラボ型が多いそうですが、どんな利点があるのですか。
グエン:うちは、ラボ型の開発が全体の70%を占めています。ラボ型の場合、専任チームでクライアント企業とコミュニケーションを深め、より満足度の高い成果を上げることができます。特に、最初に仕様を確定しないアジャイル開発の方式なら、開発の途中で仕様の変更や追加が予想される場合も臨機応変に対応できます。
いまも、あるサービスについて開発後1年ほど、専任チームが運用を担っています。クライアント企業のことをよく知るチームが担当しているので、スムーズに運用できています。
――専任チームは日本語で対応しているわけですか。
グエン:はい。クライアント企業に対しては、日本に滞在する橋渡し役のブリッジSEを中心にしてすべて日本語で、日本の開発会社と変わりない対応をしています。クライアントの課題を把握して、こちらから解決策を提案することもあります。ていねいなコミュニケーションを通じて、「日本品質」のおもてなしの精神を発揮していくのが、私たちHBLABのやり方です。
提案型の開発で実績 今後はAI事業展開も

最新の技術を使って最高のサービスを提供
――HBLABは、特にクライアント企業への提案力が高いそうですね。
グエン:HBLABでは、提案力を高めていくことを、みんな強く意識しています。私たちは、クライアント企業から言われたことをこなすだけでなく、技術担当として責任を持ち、さまざまな提案によってより良いサービスが実現できるように努力します。
クライアントと直接話すのはブリッジSEとPM。ブリッジSEはみんな日本で働いたことがあり、日本のシステムをよく理解しているので、より現実的な提案ができます。日本人のPMを入れているのも、提案力を高めるのがひとつの大きな目的ですね。
――これまで具体的にどんな開発実績を上げてきたのですか。
グエン:私たちは① Webシステムの開発、② ゲームの開発・運用、③ モバイルアプリの開発、この3つの分野を中心にオフショア開発を手がけてきました。最近では、たとえば、福利厚生代行サービス大手のベネフィット・ワンが立ち上げた会員向けショッピングアプリ「Workers Market(ワーカーズマーケット)」を開発し、2017年6月にリリースしました。福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を利用する会員に限定しているので、安全・安心でモノやスキルを売ったり買ったりできます。8人ほどの専任チームで、先ほどお話した新しいReact Nativeを使って作りました。開発期間は4カ月くらいです。
2017年11月には、株式会社Smarprise(東京・渋谷)が手がける日用品・食品の総合クチコミ(レビュー)サイト「ReviYou(レビュー)」を開発し、リリースしました。飲食店などのクチコミサイトはいろいろありますが、日用品はどれが良いかわからないということでスタートしたサイトです。これもReact Nativeで作っています。開発期間は4カ月くらいです。
――HBLABはこれから、AI分野にも力を入れていくとうかがっています。
グエン:HBLABは戦略的に、最新の技術を使って最高のサービスを提供することを重視しています。このため今後は、AI分野がとても大切だと考えています。現在、AI分野のエンジニアが3人いて、研究しています。画像認識やチャットボット、自動テストなどを手がけています。このうち画像認識については2017年10月、AI関連ベンチャーの株式会社アジラ(東京都町田市)と包括的な業務提携をしました。お互いの知見と技術を持ち寄り、対応力を高めていきたいと考えています。
――ベトナムでは、AIを学ぶ機運が高まっています。
グエン:ベトナムでは、もともと理系を志す人が多いのですが、AIが出てきて、AIに不可欠な数学を学ぶ人が増えています。HBLABでは、数学を勉強してきた優秀な人材の採用に力を入れています。
AIが進化していくことによって、近い将来、第4次産業革命が起こるといわれています。この新たな産業革命は多くの産業を変えていくことでしょう。私たちHBLABは、この変化の波に乗り、さらに成長していきたいと願っています。
新設の日本法人で柱となる営業担当者を募集

ベトナムのIT企業は、若さと情熱が持ち味
――HBLABは、このほど100%子会社のHBLAB JAPANを設立。横浜の山下公園に面するオフィスビル内に拠点を置きました。この日本法人を設立した目的と、求めている人材像についてお聞かせください。
グエン:日本法人を作った理由はいくつかあります。ひとつは、クライアントが100%日本の企業なので、日本に常駐の拠点を持つことで信頼性を高めたいということです。クライアントによっては、万が一のとき、海外だとやりとりが難しいと考えることもあるでしょう。このため、日本法人を設立して万全のサポートを提供できるようにしたかったのです。
これまではベトナムからの出張ベースが多かったのですが、いまは私が日本法人のオフィスにいます。ほかに3人のブリッジSEのうち、だれかが常駐して、事業展開の基盤を固めていくつもりです。AI分野などの事業拡大にも、日本法人を役立てたいと思います。
――今回募集するのは、業務委託型の営業担当者ですね。どんな人に入ってきてもらいたいですか。
グエン:これまでIT業界で営業を経験してきた人に来てもらいたいです。ご自身の経験やネットワークも生かし、新規の顧客開拓を進めていただきたいです。語学力があるかどうかについては特にこだわりません。日本語だけでもいいです。ITについて基本的な理解があり、元気で行動力のある人に飛びこんできてもらえればと思っています。私たちは、クライアントに対して、技術面からいろいろと提案し、満足度の高いサービスを提供しています。営業担当者にも、クライアントの抱えている課題を理解し、提案型の営業ができるように心がけていってもらいたいですね。
営業担当者には、日本の企業と私たちベトナムのHBLABの架け橋になっていただきたいです。HBLAB JAPANはまだ設立したばかりで、ほかに営業専任の日本人はいません。フレッシュなところから、思う存分に実力を発揮することができます。ぜひ、仕事に対する情熱と責任感のある人に入ってきてもらえればうれしいです。
――営業担当者はベトナムにも出張があるわけでしょうか。
グエン:そうですね。どんなエンジニアたちが、どういうふうに開発しているのか、視察を希望するクライアントが多いので、そうした方々を案内して来ていただきたいです。それから、ベトナムで私たちはどういうふうにやっているのか、社内の行事があるときなどに一緒に参加して知ってもらいたいですね。
――出張はどのくらいの頻度になりそうですか。
グエン:たぶん3カ月に1回くらいです。やはり一緒に仕事をしますので、みんなのことをよく理解してほしいです。
――ベトナムでいろんな経験ができるチャンスにもなりますね。
グエン:そうですね。結構、海外が好きな人には向いていると思います。ベトナムにも日本人がいっぱい住んでいます。現地の日本人の方々との交流も広がることと思います。
私たちベトナムのIT企業は、若さと情熱が持ち味。新しい動きにスピーディーに対応して、日本のクライアント企業に対していっそう貢献できるように成長していきます。営業担当で入ってきてくれる人には、一緒に、AIなどの新分野にも関心を広げ、飛躍していってもらいたいです。