海外の記事2015.11.10
インドネシアの働き方
日本の外側から「はたらく」を考える〜前編〜
2015.11.10 文章 / 吉次茜
停電=業務終了!? とあるオフィスの1コマ

いきなりですが、質問を一つ。 あなたは今、オフィスで仕事をしています。ようやくやる気にエンジンのかかってきた14時過ぎ、突然停電が発生! オフィスは真っ暗、PCなどのネットワーク機器も使用不可に。復旧までには1~2時間ほどかかるとのこと。急を要する仕事はないものの、とはいえやるべきことは目白押し……。こんな時、あなただったらどうしますか?
このハプニング、インフラの安定しないジャカルタでは実際に起こる現象の1つなんです。そんなときの日本人スタッフとインドネシア人スタッフの反応の違いが面白い、とさまざまな会社の人が話しているのを耳にしたことがあります。
いわく、日本人に「帰る」という選択肢はほぼないそうです。「復旧までPCを使わない仕事をする」「復旧後に残業する」、あってもせいぜい「仕事を持ち帰る」など。一方のインドネシア人は「いても仕方がないから帰ります!」という人が、8割がたを占めるのだとか。むしろ、仕事そっちのけで遊び始めるスタッフまでいるそうで(←実際に見たことがあります 笑)。さすがジャカルタ、南国らしい強気(?)なDNAを感じる1シーンです。
世界最大のムスリム国に見る「働く時間」の概念とは?

赤道直下、大小およそ13,500の島々からなる世界最多の島嶼国(とうしょこく)にして、約300の民族が共存する多民族国家・インドネシア。この首都ジャカルタで、縁あって私は生活しています。南国特有ののんびりとした環境と文化で暮らす中で特におもしろいと感じられるのは、このオフィスの様子にも見られるような「働くことに対するインドネシア人の考え方」です。
その中で、日本人との違いを感じるものとして真っ先に挙げられるのが『働く時間』に対する意識です。多くの日本人は目標の達成やスキルの研鑽、会社への貢献という意図で、残業なども含め自分の時間を仕事に割り当てる幅が大きいのですが、インドネシア人の多くは、業務時間外は完全なプライベートタイム。もちろん、業種・職種や個人の志向があるので一概には言えませんが、「残業してまで成果を求める」よりは家族や友人との付き合いなど、プライベートを重視する傾向があります。
この背景には、イスラム教を信仰する『ムスリム』が国民の88.1%(参考1 他キリスト教、ヒンドゥー教など)を占めること、また生活が常に宗教と共にある土地柄ということが、大きく関係していると言われています。
ムスリムの"時間軸"は、時に仕事を超える

まず、日常的に業務に影響するのが、1日5回行う「礼拝(サラーテ)」。これも個人のレベル感は様々ですが、たとえミーティングや至急案件などの対応中であっても、“ビジネスマン"ではなく“ムスリムである自分"を優先するシーンは多く見られます。
たとえば、ITコンサルティング会社を経営しているA氏の会社に勤めていたインドネシア人・エンジニアのC君。1時間後に障害の修正を完了しないといけないという切迫した状況で、「お祈りの時間が取れないんだったら辞めます!」と、その場で辞表を叩きつけたとか……。これはさすがにあまり見かけないケースですが、「信仰」が仕事におけるさまざまな価値観を上回ることは、この国では珍しくありません。
これ以外にも、ムスリムにとって重要な義務の一つ「ラマダン(日中断食を行う)」を行う月になると、企業の多くは昼食や終業時間の取り方から業務のタイムスケジュール、プロジェクトの進め方など、仕事に関するほぼ全てのことを、この「ラマダン」の時間軸に合わせ、その中で効率化を図っていく施策を講じます。
宗教教示が基本的な人権として捉えられているインドネシア。この国でビジネスに関わる以上、ワークタイムの捉え方やスタイルをこの国の土台=宗教に合わせていくことは、必要不可欠なのです。

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インドネシアの働き方
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インドネシアの働き方
WRITER
ライター
吉次茜
ビジネスパーソンとして、何よりも仕事を優先してしがちな日本のような場所がある一方で、インドネシアのように、「ワークタイムでも仕事より優先すべきものがある」という価値観の国では、働き方や仕事に求めるものに、自ずと違いが生まれます。 【後編】では、このようなインドネシア人の仕事に対するマインドや姿勢を掘り下げる中で、“働くこと“に対する考え方の多様性について考察していきます。