海外の記事2015.11.11
インドネシアの働き方
日本の外側から「はたらく」を考える〜後編〜
2015.11.11 文章 / 吉次茜
イスラム教は「ビジネス(商業)」を大いに奨励する宗教

常夏全開!いつでも陽気!!なインドネシア。働き方の多様性を、日本の外側から見てみようと、そんなインドネシアのワーキングスタイルについて、前編から引き続き、紐解いていきたいと思います。
前編でも触れましたが、インドネシア人の多くは、仕事よりプライベート(家族との時間、信仰など)を重視する傾向が、日本人と比較すると非常に顕著です。こういったインドネシア人の思考に、インドネシア人の90%近くの人が信仰している『イスラム教』がどう影響しているかについて、少しご説明します。
意外に思われる方もいるかもしれませんが、もともと『イスラム教』は、創始者ムハンマド自身が商人であったこともあり、イスラムの世界は『商業倫理』が尊重されている社会なのです。商人(ビジネスマン)が正しい方法(契約)によって利益を得ることは、積極的に奨励されています。世界史でも有名なイスラム社会の交易ネットワーク(中国から地中海までを席捲しました)などにも見られるように、イスラム教がおおもとにある社会では、必然的に商業が発展する素地がある、と言えます。
イスラム教「5行」の義務、その重要性とは?

ここで疑問に思った方いますよね? そうです。そういった、ビジネスを奨励するバックグラウンドがあるのになぜプライベート重視なのかと、不思議に思われたのではないでしょうか。そこにはさらに「5行」という、ムスリムの『義務』が関係していると言われています。
「5行」というのは、「信仰告白」「礼拝」「断食」「喜捨」「巡礼」のこと。たとえば「礼拝」は、前編でご紹介した1日5回行う「お祈り」のことで、日常の行いでも重視されています。(ただ、最近は勤務先などの事情で実行が難しい場合は、簡略可となっているそうです。) また、こちらも前編で触れた「断食(ラマダン)」もこの5行に含まれています。
それ以外にも、「喜捨」も多少なりとも影響しているのだとか。これは、「豊かな者が貧しい者に財産を分け与えることで、来世で救われる」という考えです。イスラム教は商業活動を推進していますが、自分だけ儲ければいいという卑しい考えはNGで、蓄えた財産は社会の中で循環させるべし、というのがこの概念です。
ここで重要なのは、『貧しい側』が喜捨を受け取ることでこのシステムが成り立っていること、つまり、貧しい側の立場は決して弱くないのです。教育機会や貧富の格差が激しいインドネシアにおいては、自分の仕事だけで生活が賄えなくてとも、この富の再分配のシステムによってどうにかなるだろうという考え方があり、それが働き方に少なからず影響している、というのが一つの仮説として語られています。
ラフでルーズなワークスタイルも価値の一つ!ハッピーに働くために多様な生き方を知ろう!

企業の担当者や経営者にインドネシア人の勤務態度を聞くと、「時間を守らない」「ランチタイムから戻るのが遅い!」「1人でできる仕事を5人でやってる……」「すぐに賃金アップを要求してくる」など、ネガティブな意見が目白押し……。
インドネシアで大学卒程度の学力を持つオフィスワーカーの多くは、非常に優秀で仕事熱心です。英語を流暢に操り、給与と経験をブラッシュアップさせたいという意欲を持つ層が多いのも事実。ただ、やはり一般的なインドネシア人の意識は、全体的に仕事をバリバリとこなす、というよりは、のんびりとぼちぼちと働く、という思考になるようです。前述したような宗教的側面や温暖な気候による元来の気質、法律でインドネシア人労働者の権利がしっかりと守られていること(福利厚生、退職金の手当)などが背景として考えられそうです。
自分を成長させるための働き方、生活のためと割り切ったところにある仕事、また、その時その時を気楽に過ごすやり方……。多様な価値観の生き方を間近で見る時、そこに住む人々の価値の物差しが何なのか、お互いにハッピーに働くにはどういう形があるか、相互に理解を深めることが何よりも重要なのかもしれません。

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インドネシアの働き方
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インドネシアの働き方
WRITER
ライター
吉次茜
インドネシアのワークスタイルを語るにあたって避けて通れないのが、今回ご紹介した宗教的側面です。人々がどういった価値観に重きを置いているのかを探る際には、こういった側面を理解し、その中でお互いにいかに良い働き方ができるかを考えていくことが重要です。さまざまな働き方が浸透してき日本でも、「働き方で重視すること」は人それぞれ。そこからお互いに良いワークスタイル、関係を築いていけるといいですね。