働き方の記事2015.12.07
“ワークシェア”の先駆けオランダ
そこに見える「働き方のフレキシビリティ」とは?
2015.12.07 文章 / 吉次茜
職種無関係!労働対価として報酬が平等に分配される社会とは?

フレキシブルな働き方の実践国として例に挙げられることの多い、オランダ。特にここ数年、労働にまつわる格差是正の一つの案として、オランダなどが実践している「ワークシェアリング」や「同一価値労働同一賃金」の考え方が注目されています。 そもそも「同一”価値”労働同一賃金」とはどういった考え方でしょうか。これは「職種が異なっても、労働の価値が同じであれば、同じ給与水準を適応する」というもの。よくニュースなどで見る「同一労働同一賃金(同じ職務に従事する労働者には、対等に、その労働時間に応じて給与を支払う)」とは、考え方が異なります。
この「同一”価値”労働同一賃金」が生まれた背景には、「同一労働同一賃金」では、性別や学歴などで職務を分けた場合に、そこに差別が発生するため、それより一歩進んだ仕組みが求められるという考え方がありました。
もともと、オランダやスウェーデンといったEU諸国は、職務内容で賃金が決定する「職務給制度」が確立されている、いわば“ワークスタイル先進国”。このため「同一価値労働同一賃金」が日本より導入しやすい環境にあります。
雇用形態も無関係!職種と役割ではかられるキャリア

出典 Trobada general de voluntaris Arrels 2013 / arrelsfundacio
これに対して日本は、現在でも新卒一括採用からの終身雇用形態をベースに、長期スパンで経験や勤続年数によって対価を支払う「職能給制度」が一般的です。「その仕事に適した人材を雇用する」という考え方ではなく、『まっさらな状態の人材(=新卒者)を雇用し“会社色”に染めていく(=その会社で必要なスキル、組織力を持つ人をはぐくむ)』という考え方。
今でこそ転職市場も流動化し、キャリアに対する対価を誠実に求めていく風潮ができつつありますが、そもそもの働き方の概念が日本とオランダでは異なります。
さらに、日本では根強い問題になっている「フルタイム勤務社員と派遣社員」といった雇用形態による賃金の差異は、EU 全体においては起こり得ないことです。なぜなら、1997 年に成立した「パートタイム労働指令」によって雇用形態を理由とした賃金格差を禁止しているからです。
またオランダでは、2000年に成立した「労働時間調整法」で、働く人が自分の働く時間を選択できる制度も確立しました。EU諸国がこれらの施策を実現できた背景には、職種と役割に応じた賃金制度が、産業別の労働協約で整備されていたことも一つの要因であると言われています。 さらにもう一つ。注目を集めているオランダの「ワークシェア」ですが、これはオランダがこの30年で獲得・整備してきた「パートタイム労働の概念」が大きく寄与しています。
「パートタイム正社員」を活かしたワークシェアの考え方

画像出典 https://pixabay.com
前述した、97年の「賃金の均等化」などの法律が定められた背景には、70~80年代の高失業率の問題があり、これらのマイナスの要素を転ずるべくオランダは80年代からパートタイム正社員の活用に舵を切り、フルタイムと代わりのない働き方として、制度の充実を図ってきました。 ワークシェアのデメリットとしては、1人のフルタイムワーカーでできる仕事に対して、数人のパートタイマーをあてがうことによる、社会保険や諸手続き作業の煩雑化や経費の増加などがありますが、それでも、担当者に何か問題があった時のリスクヘッジが容易なこと、また優秀なパートタイマーを雇用し続けることが結果的に企業にとってプラスにつながることなど、相対的なメリットがデメリットを上回るというのが現状のオランダの評価です。
このパートタイムの概念を推し進める中で、オランダは、女性の雇用増加や失業率の低下、高い給与水準なども実現させてきました(※)。国家規模などが異なるため、そのまま日本に反映させるのは困難ですが、多様な働き方がもたらす恩恵を海外の事例に学び現状にどう活かしていくか、その方法を模索していくことがまずは大事なのかもしれません。
【参考・出典】
▼ 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「2014 国際労働比較」

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“ワークシェア”の先駆けオランダ
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“ワークシェア”の先駆けオランダ
WRITER
ライター
吉次茜
ライターからのヒトコト
今回見たオランダなどは、国の規模や歩んできた歴史、そもそものライフスタイルなどにおける価値観など、日本のものとは異なる面が多くあります。そうであっても、「働き方に緩急をつける」「自分のスタイルに合わせた働き方の実現を探る」という面において、私たちが見習うべきところはたくさんあるように感じました。まずは、こういった国々のワークスタイルを学び、身近なところー会社や地域社会の中から、自分たちスタイルの働き方を考えていきたいですね。 (文/吉次茜)