キャリアの記事2016.10.11
どう働くかその選択肢を広げよう
「会社で評価される」ことに没頭してはいけない本当のリスク
2016.10.11 文章 / 黒田真行
会社ごとに激しく異なる価値観と評価基準
転職相談でお会いした、大手倉庫会社・上海支社に勤務しているSさん(34歳)は、開口一番そんな不安を打ち明けてくれました。新卒入社から5年間、輸出業務担当として日本国内の現場で働いた後、「どうしても海外で仕事をしたい」という思いを人事部長に直訴して、ようやく3年前に上海勤務を実現させました。現在、奥さんと生まれたばかりのお子さんがいて年収は700万円、特に転職すべき理由は見当たらなかったのですが、内心には上記のようなぼんやりとした不安を抱えておられました。詳しく伺うと会社の業績不振や上司との人間関係など、複合的な理由もあるようでしたが、30代後半にさしかかり今後のキャリアを真剣に考えた時に「自分はこのままで社外でも通用するのか?」という不安が抜き差しならなくなってきたとのことでした。
この「社外通用度への不安」はSさんに限った話ではなく、30歳や35歳という“年齢の節目”の方とお会いすると非常によく耳にするものです。こうした不安を持つ方に共通するポイントとして、
①転職経験が少ない
②与えられた環境の中で20代を全力で走ってきた
③社内での評価が高い、または平均以上の成績を出している
ということが挙げられます。
結論から言えば、Sさんが抱く不安の多くは当たっています。ただ、年齢的にも若く、自分を外から見ようとする客観性も持っておられるので「社外通用度リスク」は乗り越えていけるでしょう。むしろ、社内での評価に満足して「どんな会社でも通用するだろう」と自信過剰気味になっている方のほうが「社外通用度リスク」は非常に高いです。
それはなぜか?
業種や業態、あるいは職種によって共通する部分はあるものの、沿革や戦略、経営者の考え方の違いによって会社ごとの個性が異なる上、どんな「仕事の進め方」「コミュニケーションの取り方」が評価されるのか、その基準が一社一社激しく異なるからです。この当たり前の事実を頭に入れておかなければ、いざ転職となった時に戸惑ってしまい、思っていた環境と違うという理由で転職を繰り返すことになってしまいます。
自分の可能性を他人にゆだねることに潜むリスク
業務の種類によって多少の違いはありますが、多くの会社では各社員に仕事上の目標(営業で言えば売上目標やノルマ、予算など)が課せられているはずです。目標の達成度は人事考課での評価基準となり、賞与や年収、昇進・昇格などにも連動します。ただここで考慮しておかなければならないのは、多くの目標数字は「各社の過去の経験から相対的に決められているものがほとんどだ」ということ。固定的な相場観の中で、定められた目標の達成を目指すことを長く続けると、徐々に自分の中にもその相場観が固定してしまい、「枠」から逃れられなくなってしまいます。
こうして目標水準を達成するかどうかにかかわらず、自分以外の誰かに仕事の目標を定められることは、自分の能力の限界を規定されるリスクをはらんでいます。
そういう仕事を長く続ければ続けるほど、定型的なオペレーションや行動量を前提とした方法論以外の、イノベーティブな方法を思いつかなくなってしまうのです。
もちろん、会社から与えられる目標値は“給料のもと”となるものであり、義務的な側面があることは事実です。自分にとって実現可能で納得できる目標値であれば、クリアを目指す必要があるでしょう。でも、だからといって会社から与えられた目標が、自分の持っている可能性や能力の限界を規定するものではありません。
ここで言いたいことは、社畜として会社から課せられた目標以上の達成水準を目指そうという話ではなく、仕事上の課題に対して、自分なりの工夫やアプローチの開発を続け、自分なりの尺度での目標水準も持っておくべきだということです。仕事に対する態度や方法論に、常に主導権を持っておくこと。これを続けているかどうかが、後々「他社で通用するのかどうか」という不安を生まない貴重な素地になっていくからです。
「誰かからの評価」に安住する人生は、あなたの選択肢を狭める
あえて問題点を挙げるとすると、その生活が定常化することによって、誰かに評価され、褒められ、結果として役職が上がったり収入が上がったりすることだけが仕事をする意味になってしまうリスクです。ここに3つ目の理由があります。
20代はもちろん、30代、40代、50代でも弊社に転職相談に来られる方は、ほぼ100%「どこかの会社に所属すること」が目的で来られます。ただ、転職とは、本質的には「転社」ではなく、仕事や働き方、生き方をリセットすることです。
「会社で評価されること」を目的とした働き方が続くことで、「会社に雇われること」だけが選択肢となり、「起業」や「フリーランス」といった働き方は最初から選択肢にすら入らない。これは非常にもったいないことです。
インターネットの登場や、リスク回避の方法の多様化が進み、従来に比べて格段に転職や独立起業がしやすい環境が整っている環境があるにもかかわらず、あまりにも「働く選択肢」を限定している方が多く、チャンスを見落としているように思えてなりません。
転職を検討し始めたタイミングで、「もしも自分がキャリアチェンジをするとしたらどんな選択肢があるだろうか?」と考えてみてください。たくさんの選択肢の中から選びとった転職先なのであれば、面接時の自己PRの力強さも増すはずです。
【編集部からのヒトコト】
以前お話を伺ったある会社の取締役の方は「自分の市場価値を確認するため、定期的に転職エージェントと面談をしていた」そう。もし今回のような不安を抱えていたとしても、この記事にたどり着いたアナタなら「社外通用度」の心配はありません。何か対策をするとすれば、実際に”転社”するためだけでなくとも、自分の居場所を確認するための転職活動をオススメします。視野が広がり、新たな選択肢が見つかるかもしれませんよ。

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どう働くかその選択肢を広げよう
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どう働くかその選択肢を広げよう
WRITER
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
黒田真行
ルーセントドアーズ株式会社・代表取締役。求人非公開企業の経営者12, 000人に「経験・スキル」を人工知能を活用して直接打診することで、転職サイトでは見つからない出会いを広げる転職支援サービスを運営。
▶ 職歴打診型の転職支援サービス「Career Release40」
<略歴>1965年 兵庫県出身。1989年株式会社リクルート入社。 2006年~2013年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。 2013年 リクルートドクターズキャリア取締役・リクルートエージェント企画責任者などを歴任。近著:『転職に向いている人 転職してはいけない人』(日本経済新聞出版社)
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