人生100年の記事2016.11.11
人生100年時代の社会保障
小泉進次郎氏ら新社会保障制度の提言で多様な生き方・働き方支援
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2016.11.11 文章 / 藤川理絵
レールからの解放、多様な生き方・働き方を前提としたセーフティネットを
出典:Pexels
”22世紀に向けて、2020年以降を日本の「第二創業期」と捉え、この国のかたちを創りなおす。それは戦後に築かれた「レールからの解放」を意味しており、人口減少という確実な未来の中でも我が国が成長し、国民の安全・安心を確保するために、避けては通れない道のりである。”
大戦で人口の5%、国富の25%を失った過酷な状況のなか、戦後復興を果たし経済成長を持続させるために、男性は受験、新卒から就職、その後は定年まで働き続ける、女性は家庭に入って子どもを育て定年まで夫を支えるという、単一的なレールをがむしゃらに走ることが求められました。現在の社会保障制度は、そういった背景のもとみんなが幸せに生きるために形成されたもの。「20年学び、40年働き、20年老後を過ごす」という単一的なレールを前提としています。
10月に発表された提言では、”レール”が経済成長の弊害となることに焦点が当てられました。レールを外れる恐れがチャレンジ精神を阻害し、自分らしい選択を制限するような”閉塞感”につながっていると警鐘を鳴らします。また社会保障の制度自体が働く意志と能力のある高齢者の就労を妨げている現状にも触れ、「多様な働き方とそれを支える社会保障こそが、持続的な経済成長と安心の基盤である」として、チャレンジを支援するさまざまな改革案も提出されました。
▼企業も働く側も、より自由に働き手・働く場所を選べるようにする。そのために、企業が働き手の再訓練や再就職の費用を負担する仕組みを作っていく。
▼成長産業へ働き手が円滑に移動できるよう、社会人の学び直しや再就職に対する支援を抜本強化する。少ない自己負担で、成長分野のスキルを身につけることを可能とする。
▼現行の社会保障制度では一定の所得・勤務時間に満たない勤労者は、企業の厚生年金や健康保険に加入できず、十分なセーフティーネットの対象になっていないが、今後は企業で働く方は全員、社会保険に加入できるようにして充実した社会保障を受けられるようにする。
▼所得の低い勤労者は、社会保険料を免除・軽減する。同時に事業主負担は維持すること等で、社会保険の中での助け合いを強化し、学び直しやチャレンジに取り組む人を支援する。
「人生100年」を前提とした新しい年金制度とは
出典:Pixabay
現行の制度では、年金受給開始年齢は65歳と定められています。また、定年を過ぎても働く人は少ないであろうとの想定から、一定年齢を超えると保険料が納付出来なくなったり、働きながら年金を受給すると年金が減額されたりする仕組みです。このため、働く意欲があっても就労しない高齢者も多いのです。
一方、人工知能やロボット等の技術革新によって、長寿化はますます進むと言われています。例えばIBMのワトソン(人工知能と紹介されることが多いが、同社は”コグニティブ・コンピューティング・システム”と定義している)は、癌治療での実用化が着々と進められており、世界中の症例を参照して参考とすべき治療法を導きだすなど人知を超える働きで長寿化に貢献しつつあります。医療介護分野におけるテクノロジーの実用化は多面的かつ急速に進むでしょう。このようにして、高齢になっても長く元気に活躍できるようになったとき、今の年金制度のまま「40年働き、定年退職後は40年休む」という人生設計が果たして現実的でしょうか?
この提言では、「年金制度は、長く働くほど得をする仕組みへと改革すべき」と名言されています。例えば、
▼年金受給開始年齢はより柔軟に選択できるようにする。
▼年金保険料はいつまでも納付できるようにする。
▼働くと年金が減額される仕組みは廃止する。
高齢になっても働き続けること自体に対する議論はあるものとしても、それぞれののライフスタイルに合わせて年金制度を活用できる仕組みへの変更という点では、なるほどと頷けるものがあります。
病気にならないよう努力した人には「健康ゴールド免許」を
出典:Pexels
この提言で提唱されているのは、いわゆる”未病”です。医療介護費用の大半を占めるのは、生活習慣病、がん、認知症などへの対応であり、これらは普段から健康管理を徹底することで予防や進行の抑制が可能であることに着目。「病気になってから治療する」だけではなく、「病気にならないようにする」自助努力を支援していくことで、医療介護制度の維持・充実を図ろうとしています。
具体的な施策として、「健康ゴールド免許」というユニークな制度が発案されました。
▼健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けていただく。そして、健康維持に取り組んできた方が病気になった場合は、自己負担を低くすることで、自助を促すインセンティブを強化する。
▼運転免許証では優良運転者に「ゴールド免許」が与えられる。医療介護でも、IT技術を活用し、個人ごとに検診履歴等を把握し、健康管理にしっかり取り組んできた方を「ゴールド区分」。いわば医療介護版の「ゴールド免許」を作り、自己負担を低く設定することで、自助を支援する。
(自助で対応できない方にはきめ細かく対応する必要があるとも名言されています。)
▼現行制度では、自助で対応できる軽微なリスクも、大きな疾病リスクも、同じように支援している。例えば、湿布薬やうがい薬も公的保険の対象であり、自分で買うと全額負担、病院でもらうと3割負担。こうした軽微なリスクは自助で対応し、公的保険の範囲を見直す。
このように、2020年以降の経済財政構想小委員会より発表された提言「人生100年時代の社会保障へ」は、一貫して「多様な生き方や働き方を選択する人を支援する」という視点で新しい社会保障制度の在り方が議論されています。未来の生き方・働き方を探るにあたり、示唆に富む内容と言えるでしょう。

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人生100年時代の社会保障
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WRITER
編集・ライター
藤川理絵
現行の社会保障制度が整備された時代背景と現代との比較から新しい社会保障制度の必要性が説かれ、説得力を感じます。また、テクノロジーの進化や高齢化と社会制度の在り方がどのように刷り合わさって行くべきか、ひとつの指針が示されています。多様な生き方・働き方を選択することを是とする政界の動きには、今後も注目したいです。