人材の記事2016.11.17
人材×データテクノロジー
スポーツ界で実証済「ピープルアナリティクス」が創る未来の組織
keyword: 人材 ピープルアナリティクス 人事 AI 生産性
2016.11.17 文章 / PARAFT編集部
人事やスポーツ界でも注目の「ピープルアナリティクス」とは?
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個人のタレントマネジメントは、企業における重要な人材戦略の一つ。ハイパフォーマンスな候補者はもちろん、リスクを持つ人材などを“データに基づいて選べる”ことが期待されています。それがひいては生産性の高いチームづくり、コンプライアンスリスクを可能な限り減らした組織づくりにつながるからです。
実は、ピープルアナリティクスをいち早く導入・活用していたのは、スポーツ界。過去の対戦成績や個人のコンディションなど各種データを収集し、個人やチームのトレーニング、対戦方法などに活用し、長期戦略を立てるのです。アナリティクス導入前のプロスポーツ界では、組織の中で情報が分断され、データ活用がうまく機能していませんでした。たとえば、同じチーム内でもスカウト担当には選手のトレーニング内容や体調についての詳細なデータがある一方で、トレーニング担当には何も伝っていないといった状況が、往々にして起こっていたのです。しかし、“チームの勝利を目指す”という大きな目的に立ち返るべくそれまでの負の連鎖を断ち切り、2000年ごろから「スポーツ・アナリティクス」が発展していきました。
2013年、特徴的な出来事がアメリカ・NBAで起こりました。ライバルチームへの公開厳禁とされていた「トラッキングデータ(選手の動きを特定のカメラで収集したもの)」が一般公開されるようになったのです。過去には収集できなかったトレーニング内容などのデータを収集・分析し、それを広く公開することで様々な意見を取り入れることができ、次々と戦略に生かされていきました。
スポーツ界ですでに実証されている「人材×データテクノロジー」は、”21世紀型のチーム形成”をサポートしていくツールとして、第一線で望まれている手法となりました。
「ピープルアナリティクス」で変化する組織
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グローバル展開を進めるデロイトトーマツ社で2015年秋、社員同士のコミュニケーションを活性化するため、オフィスのレイアウトを大幅に変更しました。そして、この新しいレイアウトが本来の目的(生産性の向上、コミュニケーションの促進)をきちんと果たしたかどうか、テストを行いました。その結果、頻繁に利用される共有スペースがある一方で、当初の予定通りに使用されていないスペースがあること、社員の要望で導入したジムのマシンが、実際には利用頻度がほぼゼロだったことが判明したのです。
同社分析チームのリーダー、シルヴィア・ゴンザレスザモラ氏は「今回の実験結果は『社員が本当は何を優先しているか』という情報収集につながりました。この結果をもとにオフィスレイアウトと組織力の関係、つまりピープル・アナリティクスの観点から、予算の有効活用へと導くことができます」と語っています。データを収集し、社員の行動を分析し、社内オペレーションの効率化を目指すこれらの手法は目新しいものではありませんが、「人の行動を数値化してデータ化する」という部分で、かつてないほど精密な行動分析を可能にしたといえるでしょう。
また、保険会社A社の事例も見てみましょう。
営業職の人材を分析した結果、トップセールスマン=高学歴ではなく、逆に多様な人材登用がセールスを伸ばすことがはっきり数値に表れたのです。また、IT企業B社は採用プロセスに犯罪者予備軍かどうかを見極められるテストを取り入れ、リスクになる人材の採用を未然に防ぐことに成功しました。
さらに、企業の生産性の観点からもデータ活用の合理性は明らかになっています。人材の特性を分析することが多いIT企業や金融機関で、社内の優秀な人材が“業務時間外に何をしているのか”にまつわるデータを収集し、売り上げUPに影響する要素が可視化され、報酬制度の見直しや現場でのトレーニング方法に役立てることができているといいます。
ビッグデータは組織に変革をもたらすか?
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ある企業の一部では、専門部署を「社員聞き取り部」と呼ぶそう。あらゆる部署と社外のクライアント、顧客からの意見やデータを収集し分析する姿が、そのように呼ばれるゆえんなのだとか。多角的に導かれた答えを、組織の制度に活かして、弾力ある組織の構築や、人材の育成、優秀な個性をつなぎとめる方法に生かしているのです。
現在では、デロイトトーマツ社をはじめ、企業のHR部門に対してアナリティクス専用のソフトウェアサービスを展開するサプライヤーも増えています。デロイト社では現在、フライトリスク(有能なリーダーや社員が転職するリスク)分析をはじめ、さまざまな課題に対応しています。
今後は、ピープルアナリティクスにAIをかけあわせたサービス展開から目が離せませんよね。日本でもよく話題になっていますが、多くの企業で行われると予測されているのが「人事の半自動化」です。すでに、あるIT企業では社内のプロジェクトメンバーを選ぶ際に、多くの個人データを解析したAIが、自動的に候補者を選定してくれるシステムを構築しているといいます。こういったシステムがより精度をあげていけば、今まで人事担当や組織のマネージャーが頭を悩ませ、時間を費やしていた採用や人事異動などが、客観的なデータのサポートをうけながら進めていくことができるようになります。今まで漠然としていた個人のキャリア形成や昇進についても、AIが明確に”指示”してくれる時代がもうすぐそこまで来ているのかもしれません。
ピープルアナリティクスは、HRの世界でもまだまだ芽吹いたばかりの分野です。「人が人を見る」というHRの仕事の根本は不変ですが、その中で膨大なビッグデータがどう生かされていくか。それを扱う私たちが、この問いにどう答えていけるかが、来るべきAI社会での意義なのかもしれません。

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PARAFT編集部
人事分野でたびたびあらわれる決断の場面では、これからは「直感」よりも「データ」が重視されていくのかもしれません。Googleが主導するピープルアナリティクスは、採用のみならず評価、報酬、チームワークやリーダーシップ強化などに役立つはずです。人事部の仕事を奪うのではなく、より効果的な判断ができるようサポートしてくれる力強い味方になりそうです。