働き方改革の記事2017.02.28
業績を伸ばすための働き方改革
元マイクロソフト役員・越川慎司さんが語る働き方改革の重要項目
keyword: 働き方改革 越川慎司 アグリゲーター 生産性 残業時間削減
2017.02.28 文章 / 藤川理絵
アグリゲーターとして生きる新しい働き方
出典:PARAFT編集部
越川:誕生前まで遡るのですが、実は一卵性双生児だった兄弟が妊娠8ヶ月のとき、心臓が止まって流れてしまったんです。当然、母体も危険でした。でも母親は、二つ返事で生き残っている私のことを「産む」と。超未熟児で誕生した私は無事に成長したのですが、母親は出産とひきかえに腎臓などに深刻な影響が残りました。
兄弟は流れてしまって、母親は体調をくずし働きづづけたかったけどそれが叶わなかった。だから私は「3人分生きないと」と常に思っているんです。健康を維持したうえで、より多くの新しいことにチャレンジしていきたい、成長し続けたい、それが私の働く意義ですね。
−−いまは「アグリゲーター」として活躍されていますが、それはどのような働き方なのでしょうか?
越川:「社内外にネットワークを構築し、それを合体させてオリジナルの付加価値を提供する」というのがアグリゲーターの働き方ですが、これからの時代にマッチしている思います。
以前シリコンバレーに行ったとき、一個人で会社を設立していろんな企業のプロジェクトに個人として携わっている人をたくさん見て、5年後、10年後には、企業に所属していない働き方が普通になると考えました。私も少なくともあと20年は働かなければならないので、いまのうちの働き方を変えて時代に適合すべきだと感じています。
−−現在のビジネス展開について詳しくお聞かせください。
越川:はい、いまはアグリゲーターとして3つのビジネスをやっています。1つ目は、企業成長支援としての働き方コンサルや日本企業が海外へ進出する際のサポートなどのビジネスコンサルティング。2つ目は、国内外にいる若年層のキャリアを支援する教育ビジネスで、タイや日本の大学で講義を行っています。3つ目が言葉ビジネスで、書籍を出版したり講演させて頂いたりしています。
その中でも「働き方改革」についてはずっとやりたかったことですし、「政府も本腰を入れ始めた今ならできる」と実感があります。また本気で経営を立て直したいという経営者の方の気持ちに応える、ハートで仕事をするのが好きなので、アグリゲーターとして自由に振る舞える働き方はいいですね。
働き方改革の原動力は「経営者トップの覚悟」と「従業員の意識」
出典:PARAFT編集部
越川:はい、増えています。ただ、「働き方改革」はブームだからなんとなくやらなきゃとトップダウンで号令をかけるケースも見られます。
私がよく言うのは、「働き方改革を目指すのは辞めてください」ということです。「働き方改革」そのものを目指すと、制度やITの導入自体が目的化して結局はうまくいかない。「働き方改革」で一番大切なのは、経営者としてどう会社を成長させるか、どう従業員を幸せにするか、そこですよ。
−−「働き方改革」を成功に導くために大切なことは?
越川:大前提として「働き方改革」は、経営者トップの覚悟と従業員の意識、双方があって始めて成功するものだと思っています。
日本企業は合議制で物事を決めていくので意思決定が圧倒的に遅いですし、部長が帰らないと課長が帰らないとか、完璧な資料ができるまでみんなが待っているとか、IT業界でいうと納品後の修正対応が非常に多いとか、欧米と比べると無駄な時間が多いです。この無駄な時間をコンパクトにしていくことでビジネスが加速し、グローバルでの競争力を高められるはずなんです。これが「働き方改革」を進めるひとつの理由ですよ。
この効率化を実現するために、経営者が覚悟を持って行うべきは、現場に自由と責任を与えること。まずは現場の裁量で意思決定と実行を早くして、実行してから経営陣を入れてレビューし、軌道修正したり途中でやめる判断をしたらよいと思います。スタートしないことには、ラーニングもないですから。
同時に中間管理職の変革が必要です。キーパーソンはいま管理職を担う、”長時間労働を是とされてきた世代”です。彼らの意識をトップダウンで変革していく必要がある。そのためにはマネージャーの評価制度、給与制度も見直すべきでしょう。
−−従業員側で意識すべきことは?
越川:「どうせ変わらない」という諦めを捨てることではないでしょうか。もし自分の人生を考えて、効率よく働きたい、働き方を変えたいと思うならば、まずは自分から動かないと。少しづつの変化が大きな差を生みますから日々改善点を振り返って翌日に活かしてもらいたいのです。変革って、上と下からやっていかないと実現できないものだと思うんです。
働き方改革を推進していくうえで必要なのは「柔軟性」
出典:株式会社クロスリバー提供
越川:「働き方改革」といえば育児や介護など事情を持つ人に焦点が当てられがちですが、その目的は企業の成長であり、「働き方改革」は「働く人のみんな」のためのもの。働き方にも多様なニーズがあることを理解する必要があります。
生産性、時間自律性というと残業時間制限の話になりがちですが、仕事が終わっていないのに強制的に帰宅させるのは反対です。企業の成長としては正しくないし、「一気にやり終えてしまいたいから止めないでほしい」という時だってある。集中して仕事を進めているのに途中で止めるのは、逆にモチベーションも生産性も引き下げてしまいます。
−−個人のモチベーション管理も重要ということですね。
越川:熱量高く頑張ってくれている人を評価していかないといけないと思います。モチベーションが高い人のよい影響を、モチベーションが下がっている人にも波及させていくような組織運営が理想的ではないでしょうか。
人間、生きているからには何かしら目的があるわけで、会社は個人の力を借りて成長したいと考えている。だから、その人の力を最大限引き出すために「何がモチベーションになっているか」という個人を理解していくことが不可欠になります。そのためには普段からアクティブリスニングを心がけ、腹を割って話し合うことしかないですよね。モチベーションが上がらない人にどう上げてもらうかについても時間をかけてでもやらないといけないと思いますし。
−−「働き方改革」推進でほかに何が必要でしょうか?
越川:手段としてのITですね。ITが働き方変革を起こすことはないですが、個人の作業時間の短縮、時間と場所にとらわれず共同作業をする時などは特に、Web会議とチャット、クラウドは不可欠です。はじめは取っつきにくいかもしれませんが、ITを使いこなせば労働の量と質を改善できます。
「その企業が取り巻く環境に合わせて、また変化に合わせて、柔軟な働き方をすること」が「働き方改革」の真髄です。画一的な決まりがあること自体が問題なのではなく、会社が成長するために柔軟になることが求められているのです。会社がどう成長したいか、ビジョンありきの「働き方改革」こそが、成功の秘訣だと思います。

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業績を伸ばすための働き方改革
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業績を伸ばすための働き方改革
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編集・ライター
藤川理絵
「週30時間・週休3日」と仕事の時間に上限を設けて働いているという越川さんは、毎日終業時間を決めてから仕事を始める、1日のうち1分2分でもいいから「振り返り」をする、自分のやりたいビジネスに近い仕事を選んでやる、などのTIPSを実践中とのこと。「働き方改革もまずはやってみること。やれば、前に進むためのラーニングが必ずある」と、実体験を通じた言葉には説得力を感じました。