ライムスター宇多丸の記事2017.04.12
仕事の悩みは映画で解決
『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』(新潮社刊)
keyword: ライムスター宇多丸 映画 悩み コミュニケーション ビジネススキル
2017.04.12 文章 / 平原学
あがり症にオススメの『英国王のスピーチ』(2010年)
出典:Pixabay
“上手に話さなきゃ、なんてことはとりあえず考えなくてよろしい!
それより、その場で自分が本当に伝えるべきこと、伝えたいことはなんなのか、というのを、自分のなかでいったん整理してみるといいんじゃないでしょうか。”
と、著者は回答。どうやら、しゃべる能力がほしいと思うこと自体が間違いのよう。いくらスキルだけ身につけても、伝える内容のないスカスカな話なら、相手をイラつかせるだけです。たどたどしくても、余計な気負いをなくし、自分が伝えるべき最低限のことを伝えることが肝心なのです。
そこでオススメの映画が、『英国王のスピーチ』。20世紀の英国王子が、変人の言語療法士の指導によって自らが抱える吃音症を克服していく、実話に基づいた物語です。言葉を「歌」に乗せたり、大胆にも放送禁止ワードをしゃべらせまくったりと、コメディタッチの訓練方法も楽しめます。本書ではそのシーンを、“長年抑え込んできた感情を徐々に吐き出していくことが、「自然に話す」ための第一歩だというのが印象的”と解説。
最後は王となり、第二次世界大戦への参戦に向け、国民を奮い立たせる一世一代の大スピーチに臨む主人公。決して流暢なしゃべり方ではなく、言語療法士の助けを借りながら、一つ一つの言葉を国民の胸に刻み込むようにゆっくり語っていきます。またそのスピーチの裏には、敵国ドイツの大演説家アドルフ・ヒトラーとの戦いの構図も描き出し、ただのヒューマンドラマにとどまらず、「バトルもの」の要素も楽しめるのがポイント。
人はつい、「あのアナウンサーみたいにしゃべれたらな、うちの部長みたいにうまいこと取引先と商談できればな」と淡い夢を抱きがちです。無理に誰かを真似るのではなく、自分なりにどうしゃべれば相手に伝えられるか、己を掘り下げていくことが重要です。
営業成績を上げたい方に、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)
出典:Pixabay
主人公がごくふつうのボールペンを取り出し「これを俺に売りつけてみろ」と仲間を挑発するシーン。価値のない株を、あたかもこれから価値が出てくるもののように紹介し、電話口で大量に売りさばくシーン。嘘でもいいから需要を作りだそうという、一見危険な物語にも受け取れます。
“考えてみれば、そのように「実体のない価値が回り続ける」ことで成り立っているというのは、資本主義そののもの在り方”
と、著者は解説。突き詰めていけば、あらゆる商品に価値はないかもしれません。健康食品だって、ロボット掃除機だって、ましてやCD・本などの娯楽商品も、無くても人は生きていけます。それらを、「つまらない商品なんですが、どうか買ってください」と人情に訴えかけても人の心は動きません。
「営業成績を上げる」ためには、いかに商品そのものの価値を見出し、人の購入欲をかきたてるかが勝負の見せ所。映画を観て、資本主義の根本的な在り方から考え直してみましょう。
部下の指導法を学びたい方には『ルーキー』(1990年)
出典:Pixabay
“そこで摩擦が起こるのを恐れて教育をおざなりにしてしまうと、何か問題が起きたときに適切に対処できなかったりして、まず真っ先に困るのがその後進たち自身”
と、著者は指摘します。そこでオススメされる映画が、クリント・イーストウッド監督・主演作の『ルーキー』。ベテラン刑事が新米刑事を多少荒っぽくも鍛え上げていく、「教育」「継承」を描いた王道のストーリーが展開されていきます。
鑑賞のポイントは、指導する側のキャラクターだって、最初はその立場を嫌がり、苛立ちを覚えているという点。“それでもちゃんと、「ブレない背中」を見せ続けるのが大事”と著者は説いています。
なお、本書では紹介されていませんが、『SCOOP!』(2016年)も、師と弟子描いた映画としてオススメの作品。これも著者自身がラジオで絶賛していた通り、福山雅治扮するベテランのカメラマンから、二階堂ふみが演じる新人のライターへと「教育」「継承」されていく美しいプロセスが描かれています。写真を撮る側と、記事を書く側、微妙に仕事は違っても、イズムは継承されていくもの。ラストシーンで新人のライターが、「お守り」と言い、師であったカメラマンのフィルムカメラを現場へ持って行くシーンは、まさしく「継承」の構図を守っています。
指導とは、一筋縄にはいかないもの。完璧に教えることなどできません。教える側も、もがきながら、何か一つでも継承させていけるものを与えること。それが役割なのでしょう。
■収益金について
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仕事の悩みは映画で解決
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仕事の悩みは映画で解決
WRITER
コラムニスト、ライター
平原学
本書は「映画を選ぶ暇も無い」と嘆く忙しいサラリーマンにも、自分の今の気分からオススメの一作にたどり着ける最良の一冊――では、ありません。“「最初から観たいと思っていたような」安パイばかり選んでいたら、ビフォー/アフターで自分が決定的に変わってしまったと感じられるほどの「ショック」は、決して得られないでしょう”と著者。一つ一つの相談に適切な作品を紹介するだけでなく、あえて「劇薬」と思える作品も同時に紹介しているのが本書の特徴です。冒頭で引用した言葉のように、どの点からも学べるのが映画というもの。「これだ!」という作品だけではなく、「敢えてこれ!」という作品を選ぶ楽しさも、感じてみてください。