育休の記事2017.04.07
長期的なキャリア形成のために
聞いてもいいの?面接で「育休はとれますか」という質問
keyword: 育休 キャリア キャリアロス 棚卸し キャリア開発
2017.04.07 文章 / 星野千枝
育児休業のなりたちとしくみ
出典:Pixabay
育児休業のしくみ自体は、1972年に企業の努力事項として定められたときから考えると40年以上の歴史があります。途中で何度も形を変えて、国が推進するしくみとしてはかなり柔軟に時代にあわせて進化しているものです。
なお、働いた対価として給料があるので、育児休業中は給料の支給はないことが通常です。この間は、雇用保険料を財源とした育児休業給付の支給を受けながら復帰に向けての体制を整えます。雇用保険は会社に勤めていないと加入しないものなので、フリーで仕事を請け負う方についてはこの恩恵はありません。
ただ、会社にとっては給料の支給はないとはいえ、その方が担当していた仕事はほかの誰かに担ってもらう必要があります。育児休業は、復帰時期が保育園次第になりやすいこと、また産前産後休業とあわせると半年以上の長期になるケースが多いことから、短期の契約社員や派遣社員で賄うことは難しくなりつつあり、新しく正社員を雇用して賄うとなると人員数の純増につながるので、実はそんなに簡単なことではありません。
ですから、面接の場で「育児休業はとれますか?」と聞かれた際、この会社で長期的なキャリアを描きたいという想いや前職では妊娠した人は辞めていく文化だったなどのエピソードが前提にあるとその真意にあわせた回答ができますが、権利確認の意味で聞かれると「条件に該当すればとれますよ」という回答になります。そこにある企業側の本音としては、法律で決まっていることなので当然ながら取れます。ただ企業側にとっては負担も大きいことなので、その代わりあなたもしっかり仕事を頑張って貢献してくださいね!といいたいのです。もし、「とれない」と回答する会社があったら、本来はとれるものなのでその理由を確認して、自分自身が納得できる内容かどうかで判断してください。
育休に入るまでにクリアにしておきたいこと
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“自分が新規で獲得したお客様で、獲得して半年後に自分は産休・育休に入った。1年後、復帰したがそのお客様の担当を自分に戻してはもらえなかった。自分が獲得したお客様なのに……”
残念な気持ちは分かるのですが、お客様はあくまでも会社のお客様です。これは自分が開発したプログラムや自分が立ち上げに携わったサイトなど、会社に所属する以上は職種を問わずどんな仕事にも通じるものです。
ただし、そのお客様を獲得したとき、そのサイトをつくったときの知識・能力・経験は自分のものです。お客様の担当を誰にするかは会社が決めることですが、培った知識・能力・経験はキャリアが休止してもなくなることはありません。
育児休業をとるということは、自分のキャリアと向き合う機会を持つということでもあります。これから子どもを持ちたいと思っている方は、キャリアの休止(キャリアロス)に備えてまず自分のこれまでの仕事を振り返り、知識・能力・経験を棚卸ししてみてください。
棚卸しができたら、今後のキャリアで活かしていきたいことと向き合いましょう。培った知識・能力・経験はなくなることはありませんが、内容によって速度は違えどもいずれも酸化してしまうものです。長期間ただ放っておいたら復帰したときには錆びついていますが、育休中に油を注したり磨いたりすることは可能です。せっかくの自分のキャリアなので、育休中も情報収集を怠らない、趣味に転用して能力を高めるなどできることをしましょう。
一方で、棚卸しが進まないという方、棚卸してみたけれど、棚に入れるものがほとんどない、ぱっとしないという方は、育児休業から戻ったときにかなり苦労すると思ってください。その場合、キャリアは休止ではなくリセットされてまたゼロからのスタートになり、復帰後は時間等の制約なく働ける方と同じ土俵で競っていくことになります。
育児休業の取得は権利として保障されていますが、会社がその人のキャリアまで保証することはできません。育児休業も含んだ自分自身のキャリアを考えるうえでは、自らの持つ雇用される価値、これまでと異なる環境でも通用する能力をぜひ意識してみてください。
会社がキャリア開発の一環として支援できること
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育児休業のしくみができた当初、子育て社員の活躍推進は企業の社会的責務の側面が強かったように思います。それが今では、子育て社員を含め多様な人材に活躍してもらうことは会社の今後を左右すると考える会社がかなり多くなりました。
キャリアを描くうえで、いくつかの小山を乗り越えながら高い頂きを目指して自ら険しい山道を登って自分を磨いていく方と、流れる川に身を任せているうちにいくつもの激流や濁流を経験して自分を磨いていく方がいます。これを仮にクライムタイプとリバータイプとして、社員を分類してみてください。リバータイプの方はクライムタイプの方と比較すると、自分を磨いてきた感覚が薄いので、自分の持っている知識・能力・経験に対しての自覚も薄いことがほとんどです。特に女性には後者のリバータイプの方が多く、このことは子育て社員の活躍を推進するうえでネックになっているように感じます。
というのも、どちらの道を歩んでも自分を磨くことは可能なのですが、知識・能力・経験に対して自覚が薄いと、キャリアの休止(キャリアロス)が発生した際にそれらを錆びつかせてしまいやすいからです。これは、育児休業をとる方にとっても会社にとっても大きな損失です。
自覚してもらうためには、管理職者との面談や社内外の研修を通じて、定期的にキャリアの棚卸しをする機会を設けることが有効です。そんなに難しいことではありません。その方の取り組んできたことの結果と結果につながった要因を客観的に振り返る手助けができれば、キャリアの自覚につながり、今後のキャリアを考えるきっかけにもなります。
会社の義務として育児休業の取得に対応することは重要ですが、本当に取り組むべきは育児休業も含む長期的なキャリア形成を支援していくことです。面接の場で「育児休業はとれますか?」と聞かれたら、制度があるという意味ではなくその後のキャリアを支援する心構えまで含めて「とれます!」と回答できると、応募者のモチベーションアップにもつながると思いますよ。
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WRITER
社会保険労務士
星野千枝
育児休業のしくみは、同じ会社に戻ってまた同じように働けるというただのパスポートではありません。社員と会社の意識が、権利の行使と義務を果たすことに向いてしまっているとただのキャリアの分断になってしまいますが、本質的には子育てしながらの長期的なキャリア形成を支援するためのしくみです。ぜひ一度、立ち止まって双方がキャリアについて考えてみてください。<プロフィール> 星野SR事務所代表(平成21年1月に社会保険労務士登録)高校生の娘を持つシングルマザー。<略歴>マザーズ上場のIT広告業でマネジメントを含み6年半の人事に従事。社会保険労務士の知識と人事の経験を活かし、人事支援をメインに活動中。