パートタイムの記事2017.04.05
オランダ・モデルの奇跡
奇跡の働き方改革を実現したオランダ
keyword: パートタイム オランダ 失業率 働き方 女性
2017.04.05 文章 / 和田由紀恵
最悪な状況だったオランダ
出典:Pixabay
天然ガスの輸出は大きな利益を産むため、当時のオランダは、天然ガス採掘のために労働と資本を集中投下しました。多額の外貨獲得という好循環が生まれるなか、国家財政も潤い高福祉社会を実現、エネルギー産業にひっぱられるような形で労働者全体の賃金も上昇しました。60年代から70年代にかけて、オランダはヨーロッパの中でも最も社会福祉の充実した、豊かな国になったのです。
ところが、エネルギーブームが70年代末には収束し、好調だったオランダ経済は失速、高福祉であることが国家財政を圧迫し、高賃金が会社経営を悪化させました。結果、大量の失業者が生まれ、80年代前半には失業率が14%を記録し、経済成長率はマイナスへ転じました。財政を支えるために税負担はどんどん重くなり、労働組合による闘争が頻発。周囲の国からは、オランダはもはや再起不能、とまで思われる状況でした。
この最悪な状況を、オランダは15年かけて克服したのです。
90年代には、年平均2%ほどの安定した成長率を達成し、失業率も6%を切るまでになりました。
オランダ・モデルとは
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それは、1980年代初めに導入されたワークシェアリングとその実行を支える「ワッセナー合意」から始まる、当事者の意識改革から生まれた一連の奇跡によるものでした。
14%という高い失業率に苦しんでいたオランダは、1人のフルタイム雇用を2人のパートタイム雇用で分け合うことで、失業率を改善しようとしました。とはいえ、単純に分け合うだけでは、企業の雇用コストは減らないうえ、個人の所得も下がってしまいます。ワークシェアを促進しようにも、当事者の利害がぶつかりあってなかなか進みませんでした。
そこで、当事者がそれぞれに痛みを分かち合いながらこの状況を打開する必要があるという強い危機意識のもとに、「ワッセナー合意」が政府・労働者・雇用者の三者間で結ばれました。政府は所得税の減税や社会保障負担の軽減を行う、労働者は賃金を抑えることに合意する、企業は労働時間短縮や雇用の確保をする、という役割分担を明確化し、それぞれに協調して失業率の低下を目指したのです。
その結果、「パートタイム正社員」というオランダ独特の働き方が生み出されました。96年に、フルタイム労働とパートタイム労働の権利を同一として差別を禁止する法律が制定されてから、パートタイム労働者が増加しました。オランダのパートタイマーは、勤務時間の短い正社員として定着したのです。
こうしたパートタイマーの立場が確立したことで、女性の社会進出も進みました。実は、オランダは保守的なカトリック社会です。70年代までは、男性が稼ぎ、女性は家庭を守るという意識が根強く、女性が外で働くことは一般的ではありませんでした。ところが、70年代以降の女性の教育水準の向上やパートタイマーを積極的に雇用したい企業の需要が後押しとなり、パートタイムで働く女性が急増したのです。
こうした「ワッセナー合意」から始まる様々な協調と試行錯誤を重ねた雇用制度改革によって、オランダは、2000年には失業率3%まで改善することができました。失業率を改善できた大きな要因が、女性の社会進出だったことはいうまでもありません。
オランダと日本のいま
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オランダ・モデルは、自国の状況が極めて危機的であることを、それぞれの立場で理解し、お互いに協調しながら解決策を模索するなかで生まれました。
解決策のひとつとして、働き方に対する根本的な意識(女性は家庭に・パートタイムは正社員と同等に扱えない、など)を大きく変えることが、短期的に大きな成果をあげることことなりました。
翻って日本でも、背景は違うものの、財政や経済成長や労働人口が危機的な状況であることは同じです。そして、働きたい女性を中心に、社会全体で柔軟な働き方が求められていることも同様です。
どうやら、「女性は家庭に」という意識は、日本の風土に根付いているから変えにくい、というわけではないようです。当事者が働き方を変えることの必要性を十分に理解し、妥協をしてでも変えていく努力をすること。
それが、日本の働き方を本当に変える原動力になるかもしれません。

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オランダ・モデルの奇跡
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オランダ・モデルの奇跡
WRITER
編集者・ライター
和田由紀恵
漠然と、欧米は女性の社会進出が進んでいる、と認識していた筆者。今回、オランダ・モデルを紐解いて、意外にも最近になって社会進出が進んだのだと知りました。パートタイムでもフルタイムと同等に働く、というのは時短の正社員とも違う魅力的な仕組みだと思います。こうした事例を知ることで、働いていくことに心強さを感じたワーママの筆者でした。