バッタを倒しにアフリカへの記事2017.09.12
本気の人間はカッコいい。
自分を信じる人のすがすがしい強さ|バッタを倒しにアフリカへ
keyword: バッタを倒しにアフリカへ 前野ウルド浩太郎 めくれバ! ちょっと差がつく読書の秋 本気
2017.09.12 文章 / 岡野 美紀子
バッタに魅せられた男の本気
生きていれば誰しも挫折や苦しみを味わいます。そんな人生の苦境に立たされたとき、みなさんはどうしますか?
とことん落ち込んだり、友達や家族に愚痴を聞いてもらったり、とにかくもがいてみたり、時には何かをあきらめたり-。目の前の壁が高く分厚く感じられるほど、自信がなくなって、本気で挑むことが怖くなります。逃げ出したくなることもあるかもしれません。
そんなときこそ「自分自身を信じるチカラ」を持て! と本書は教えてくれます。
著者・前野ウルド浩太郎さんは1980年、秋田生まれの昆虫学者。たびたび大発生してアフリカをはじめとする世界の農業に甚大な被害をもたらすサバクトビバッタに魅せられ、2011年4月、西アフリカ・モーリタニアに乗り込みます。
「バッタに魅せられ」とサラリと書きましたが、その魅せられ度は、私たち読者の想像をはるかに超えたレベルです。
まず目を引く本書カバーの強烈なビジュアル。緑色の顔で虫取り網を片手にポーズを決めているのが、著者本人です。夢は「バッタに食べられること」。裏表紙では、(エサの植物に擬態するため)緑色の全身タイツをまとってバッタの大群を迎え撃つ写真が掲載されています。
この姿を見て単なるイロモノ学者と決めつけてはいけません。外国で大発生したバッタの大群に巻き込まれた観光客が着ていた緑色の服を食べられてしまったことに「うらやましい」と思ったという子ども時代からの夢を今まさにかなえようとする姿なのだ、と言えば、その本気ぶりが伝わるでしょう。
本書ではバッタを追いかける奮闘の日々について、かなりの量の笑いを交えてつづられていますが、「どんな逆境にも負けないマインドを学ぶビジネス書」として読むこともできるほど学ぶことの多い一冊です。思うようにいかない状況にあって、著者はいつも情熱とユーモアをもって道を切り開くべく立ち向かいます。そのまっすぐな姿勢は、目の前の壁にくじけそうな私の心を励ましてくれるのです。
空振りの日々が続いても、自分を信じて挑戦できるか
ところが訪れるのは困難ばかり。
現地のチームメンバーには相場以上の賃金をふっかけられ、サソリには刺され、地雷地帯に行く手を阻まれる。そもそも肝心のバッタの群れに出合えません。空振りの連続で手柄も立てられず、研究費や生活費は底をつきかけます。このまま研究を続けるべきか否か--。進退きわまった苦しい状況で、こんな言葉を自身に放ちます。
「たまたまはじめたバッタ研究を惰性でズルズルとやっていこうとしているだけか、それとも心の底からやりたいのか。苦しいときは弱音がにじみ、嘆きが漏れ、取り繕っている化けの皮がはがされて本音が丸裸になる。今回の苦境こそ、一糸まとわぬ本音を見極める絶好の機会になるはずだ」(本文より引用)
この言葉には、自分を試すことへの恐れがみじんもありません。それは、きっと前野さんが「自分を信じるチカラ」、つまり自信を持っているから。その自信は決して空疎なものではなく、どんな逆境も逃げずに乗り越えてきた数々の経験に裏付けられたものなのでしょう。事実、たびたび見舞われるアクシデントをむしろ逆手にとって、自身の糧につなげていくエピソードが本書でも数多く語られています。
本気で挑むから自信につながり、自信があるから本気で挑める。
前野さんの姿は、いつの間にか状況に甘えていた自分を揺さぶります。本当にやりたいことは何か、そこに向かって努力を続け、知恵を絞ったか、そしてそれを楽しんできたか。振り返ってみると、頑張っていたつもりでも「時間が足りないから」「相手とタイミングが合わなかったから」と言い訳をして、本気で挑むことに手を抜いていた自分が確かにいました。
本書では終盤、「日本にはバッタ博士の需要がない」という現状に対し、それなら自分で需要をつくるしかないと、戦略的にバッタ問題を広報する過程がつづられます。その結果がどうなったかは、この本自体がじわじわと人気を広げていることからも知ることができるでしょう。
本気の人間は実にすがすがしくてカッコいい-。
前野さんは、出版イベントで目にした書店員さんたちをこう評しています。そう話す前野さんもカッコいい。「自分を信じるチカラ」を付けるべく、本気で挑む勇気をムクムクと奮い起こしてくれる一冊です。
『バッタを倒しにアフリカへ』の書籍情報
著者: 前野ウルド浩太郎
初版発行: 2017/5/17
出版社: 光文社
価格: 994円(税込)
サイズ: 新書
頁数:378ページ
ジャンル:新書
読了目安: 2.5時間
ISBN: 9784334039899
WRITER

編集者・ライター
岡野 美紀子
強烈な表紙に引き寄せられ、昆虫に特段の興味がなくても「なんか面白そう」と手に取ってしまう『バッタを倒しにアフリカへ』。本書に出てくるゴミムシダマシのように、まんまとトラップに引っかかったのかもしれませんが、仕事に対する著者の真摯な姿勢に「この本に捕まってよかった!」と心から思います。
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