里山資本主義の記事2017.08.22
田舎流の経済でいこう!
もうひとつの経済が日本を支える|里山資本主義
keyword: 里山資本主義 藻谷浩介 めくれバ! 新書がおもしろい! NHK広島取材班
2017.08.22 文章 / 平田浩司
里山革命家たちが田舎からのろしを上げる!
日本人は里山で木枝を刈り、燃料にしてきました。山菜やキノコ類も採取して、食生活を豊かにしてきました。木が成長したらそれで家屋をつくりました。木を切った跡には、また木を植えました。そこに多くの小動物や虫も棲み、生態系が維持されてきました。
自然の恵みをいただき、自然と共生して安定した暮らしを営んできたのです。土地に根ざして工夫を重ね、持続可能な経済をまわしていく。そんな日本流、田舎流のやりかたがすごい!と言い始めたのが、本書『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』です。
書いたのは、日本総合研究所調査部主席研究員の藻谷浩介さんと、NHK広島放送局の「里山資本主義」取材班。NHKでは世界のマネーが凍りついたリーマンショック(2008年)の後、グローバルな「マネー資本主義」を補完するサブ経済システムとして、地域の小規模経済に光をあてました。地元で採れる材料を生かして、地道に良質のものを作る。日本各地のそんな営みを取材し、連続番組にしていきました。その成果が本書に反映されています。
藻谷さんは日本の津々浦々を歩き、地方の実情を知り尽くしている論客です。藻谷さんを迎え入れ、広島放送局を中心にしたNHK取材班が出かけて行った先は、新しい循環型の地域経済を生み出しているパイオニアたちのところでした。筆者らは、パイオニアたちのことを「里山革命家」と呼んでいます。
中国山地の山あいに位置する岡山県真庭市では、地元の製材業者が木くずを生かしてバイオマス発電を始め、地域の電力を確保していました。地元の木くずで電力が確保されていれば、海外からのエネルギー供給などに万一のことがあっても、生き延びる手立てが考えられます。
山口県の周防大島では、Iターンでやってきた元電力会社の社員が、瀬戸内海の光を浴びて育った地元の柑橘類を使い、ジャム屋を営んでいました。農家の人の助言をもらいながら、良質のジャムを生産。そのジャムを求めて遠方から買いに来るお客が絶えないそうです。こうした営みこそ、これから日本が守り育てていくべきサブ経済システムなのだと、本書は訴えています。
かつて山里はほんとうに豊かだった!
中国地方の山奥といえば、豊かさを生むような資源も技術もないと思っていたのですが、1カ月滞在して見えてきたのは、かつて山里が持っていた経済力のすごさでした。中国山地の砂鉄と豊かな森林資源を生かして、「たたら」と呼ばれる製鉄などを営み、莫大な富を得ていたのです。木々を再生産して、生態系も維持していました。
明治以降、日本のものづくりの中心は、そんな山々から海岸部に移り、山間部はすたれました。それでも今も、先祖代々の立派な家や田畑、そして里山があり、山里の人々の暮らしを下支えしています。取材した人たちから「わしらは何かあっても、畑や山があるから生きていける。大変なのは都会の人たちだよねえ。何かあったら、あなたには食べ物を送ってあげる」と言われ、す、すごい!と思いました。
かつて田舎の人たちが里山に根ざして生き延びてきたように、列島の大地に根ざして事業を起こしている里山革命家たちには、期待をかけたいと思います。本書で彼らの働き方や生き方にふれると、元気を分けてもらえる気がします。
本書『里山資本主義』はベストセラーになり、その後、同じような目線で地域の豊かさを伝える本がずいぶん出てきています。そうした地方への目線を養ううえでは、まずこの『里山資本主義』を手にとることをおすすめしたいです。
『里山資本主義』の書籍情報
著者: 藻谷浩介・NHK広島取材班
初版発行: 2013/7/10
出版社: KADOKAWA/角川書店
価格: 781円(税別)
サイズ: 17.2 x 11 cm
頁数:308ページ
ジャンル:社会問題
読了目安: 4時間
ISBN: 978-4041105122
WRITER

編集者・ライター
平田浩司
里山は、人が手入れをすることで初めて維持されます。いま日本列島各地の里山が手入れされず、荒れ始めているのは、大変マズい事態ですね。もっと田舎に光があたり、里山の守り手が育っていくことを願いたいものです。
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