海からの贈り物の記事2017.10.24
海辺の貝殻との対話とは
疲れた女性の心を洗う言葉の数々!読み継がれる名著
keyword: 海からの贈り物 アン・モロー・リンドバーグ めくれば 「#最近読んだ本」に使っていいよ 季節外れの海
2017.10.24 文章 / 平田浩司
大空を舞ったキャリア女性、アン・リンドバーグ
アンの夫、チャールズ・リンドバーグ(1902~74年)は、のちに人工心臓の開発でも有名になるのですが、きわめて優秀で、同時に勇気とロマンに満ちあふれた飛行機乗りでした。1927年に愛機「スピリット・オブ・セントルイス」で大西洋単独無着陸飛行をやってのけたときには、パリ郊外の空港に延べ100万人の見学客が押しかけたともいわれます。
チャールズは各地の社交界で引っ張りだこになります。この年、駐メキシコ大使のドワイト・モローに招待されてメキシコを訪れたとき、大使の家庭で、美しく才気あふれる次女アン(1906~2001年)とめぐりあいました。
アンはそのころアメリカの名門女子大学を出て、創作活動に夢を膨らませていました。勇気とロマンにあふれるチャールズとすぐに恋に落ち、2年後に結婚します。自身も飛行機操縦を覚え、副操縦士・通信士として夫に同行するようになりました。その一端をつづった作品で文壇でも頭角をあらわしていきます。子どもにも恵まれ、同時代の女性たちからカリスマ視されるようになっていきました。
けれども社交界はいつの時代も嫉妬と妬みで満ちています。1932年には長男が誘拐され、捜索むなしく殺されるという最悪の事態を迎えます。その後、子どもたちが増え、仕事と子育てに追われるようになりますが、夫チャールズには不倫のうわさが流れます……。
いつの時代も変わらない「細切れになる時間」
アンは最愛の家族からも離れて数週間、離島の海辺でひとりの時間を過ごします。簡素な家に住まい、ときには裸足になって、海辺で手にするさまざまな美しい貝殻を見つめます。本書『海からの贈り物』は、そんな思索のなかでまとめられました。
考えてみれば、女性が仕事から離れ、それだけでなく家族からも離れて、長く「まわりに何も与えない時間」を過ごすのは、現代でもなかなかできることではありません。アンが記しているように、女性はいつもまわりに何かを与え続けています。まわりに合わせて自分を切り売りし、細切れになっていく時間のなかでどう自分らしくあり続けるか……。これは現代でも変わらない悩みごとかもしれません。
本書を読んでいると、きっとアンが歩いた砂浜の情景が浮かんでくることでしょう。もしかしたら潮風や波の音も感じられるかもしれません。ちょっと心がカサついてきたときなどに、本書を手にして、うるおいを感じてみませんか。
『海からの贈り物』の書籍情報
著者:アン・モロウ・リンドバーグ(吉田健一訳)
初版発行:1967/7/24
出版社:新潮社
価格:464円(税込)
サイズ:文庫
頁数:131ページ
ジャンル:エッセイ
読了目安:5時間
ISBN:978-4102046012
WRITER

編集者・ライター
平田浩司
『海からの贈り物』は世界各地で翻訳され、多くの女性に読み継がれています。日本ではご紹介した新潮社版のほかに、立風書房版(落合恵子訳)もあります。ただ新潮社版で興味を持った方にはぜひ、原著『Gift from the Sea』を直接読むことをおすすめしたいです。小さな短編エッセイ集ですので、旅行かばんに入れ、自分を充電するときの座右の書にしてもいいかもしれません。
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