日本の弓術の記事2017.10.24
結局禅ってなんなの?
師に戒められまくったドイツ人哲学者による「現代版・禅問答」
keyword: 日本の弓術 オイゲン・ヘリゲル めくれバ 「#最近読んだ本」に使っていいよ ジョブズ
2017.10.24 文章 / 岡野 美紀子
案内役は「師匠の教えを疑うドイツ人」
かみ合っているようでかみ合っていない、わけのわからない議論を指して「禅問答のようだ」と形容したりするように、禅の思想は正直とらえどころがありません。
旗が風になびいているのを見て、「旗が動いている」「風が動いている」「いや、きみたちの心が動いているんだ」という有名な問答はまだしも、「和尚がなんか急に斜め上の答えを返してきて、その途端、弟子は悟った」的なパターンの問答は正直、意味不明です。全然ロジカルじゃない!
こんなにも直観的な禅の思想を、ロジカルな思考方法にゴリゴリに固まった欧米人、ひいては現代日本のわたしたちは理解できるのか? 禅をビジネスに生かしているって言うけど、そんなこと本当にできるのか?
そんな疑問が少しだけ解けるのが、本書『日本の弓術』。大正の終わりに、日本の弓道を通して禅の思想に触れた外国人著者の体験記といえる内容なのですが、その視点は、まさに今のわたしたちが慣れ親しんでいる視点です。これがめちゃくちゃにわかりやすい!
師匠の教えに戸惑ったり、疑ったり、ときに怒られたりしながら禅たるものを体得していく様子は「現代版・禅問答」なのかもしれません。
ロジカルな思考に慣れた頭を射抜く、伝説の「弓聖」の矢
「ヨーロッパ人にはたぶん無理」とか「前に外国人に教えたけど、面白くないことがあった」とか言われながらもなんとか、その道の達人・阿波研造氏のもとに弟子入りを許されたのでした。
この阿波研造氏が今も「弓聖」と称される、すごい人物。的を射抜く能力うんぬんではなく、精神的修練としての弓道を極めきった、知る人ぞ知る第一人者なのです。
ご存知の方も多いでしょうが、実はジョブズ氏が大きな影響を受けたという『弓と禅』(福村出版、1981年)は、ヘリゲル氏の講演録である本書『日本の弓術』を改稿したもの。いわば「阿波研造はジョブズに影響を与えた日本人」ということになります。
さて、阿波氏に師事してけいこを始めたヘリゲル氏。
「腕の筋肉は緩めて、心で弓を引くのだ」
と言われれば、
「本当は何かコツがあるんだろうに、もったいぶった言い方してる」
と思ってみたり、
「無心になろうと努めていては無心になれない」
と戒められれば、
「少なくとも無心になるつもりがなくちゃ、無心になるの無理ですよね」
と反論して師を途方に暮れさせてみたり、
自ら考え出した「いい指の開き方」のテクニックをドヤ顔で披露しては、
ものすごーく、かつ無言で怒られてみたりと、なかなかの弟子っぷりです。
でも、その態度こそが「禅がわからない人」であるわたしたちそのもの。そんな読者代表の「ヘリゲルくん」に、阿波氏は有無を言わさぬ”伝説の矢”を放ってみせてくれるのです。
その矢がどんなものだったのか、2人がどんな経験を重ねたのか、ヘリゲル氏がどのようにして新たな価値観を体得し、最終的に免許皆伝にまで至ったのか--。
本書はあくまでヘリゲル氏の視点と体験から理解されたことであり、この600円にも満たない薄い文庫本を読んだからと言って悟りの境地に至ることは絶対にありません。でも、現代のわたしたちにとって「禅的なもの」の優秀なガイド本になってくれるのは間違いないでしょう。ヘリゲル氏の体験を追いながら、ロジカルな考え方に慣れた頭をほぐしてみるのは、存外おもしろいかもしれませんよ。
『日本の弓術』の書籍情報
著者: オイゲン・ヘリゲル
初版発行: 1982/10/18
出版社: 岩波書店
価格: 562円(税込)
サイズ: 文庫
頁数:121ページ
ジャンル: 哲学・思想
読了目安: 1時間
ISBN: 9784003366110
WRITER

編集者・ライター
岡野 美紀子
阿波研造という人物については20年近く前、仙台で学生時代を過ごしていたころに、同じ研究室の先輩から教えてもらいました。当時は今よりさらに輪をかけて、ちんぷんかんぷんだったのを思い出します。久しぶりに読んでみた『日本の弓術』。「『禅は、なぜよくわからないのか』がよくわかったぞ!」という禅問答のような感想を持てて、少し満足しました。
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