育休ボランティアの記事2017.10.31
育休が変わる!新しい過ごし方
「他の会社でボランティア」で視野を広げる、キャリアを見つめる
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2017.10.31 文章 / 和田由紀恵
復職時危機からみえた「付加価値」が得られる育休とは
大手運輸会社の総務部門に在籍している樽井三喜さん(35歳)は、 約2年前の育休明けを振り返ってこう話してくれました。第一子の育休は産休を含めて7ヶ月ほど。復職前後のギャップに衝撃を受けたそうです。
長い育休で仕事の勘が戻っていない上、子育てに特有の制約を抱えて復職するママたち。育児と働くことの両立の大変さに押しつぶされそうになったり、いわゆるマミートラック(※)に陥って、モチベーションが減退してしまったりするママは少なくありません。最悪の場合、退職してしまうこともあります。
※マミートラック=子育て中の女性が元々の業務から外され、時短勤務が可能な補助的な役割の仕事を担当している状態。仕事と子育ての両立はかなうものの、キャリアアップは望めないことが多いのが現状。
働くママに降りかかる復職時の危機は、多くの企業が抱える課題。育休中の社員と先輩ママ社員や上司、同僚が定期的にコンタクトを取るなど、「育休中も会社とつながっている状態」を作る努力をしています。その一方で、積極的に「他の会社でボランティアをする」育休ママが増えてきています。
2017年2月に第二子を出産した樽井さんも、そんな育休ママの1人。現在は2回目の育休を利用して、ベンチャー企業で編集ボランティアをしています。樽井さんはなぜ他の会社でボランティアをしようと思ったのでしょうか。
「前回復帰したとき、視野も広がっていなくて、今までと同じスキルで、それなのに時間の制限があって、という状態では、自分は何の付加価値も会社に提供できていないんじゃないか。制約がある分、マイナスな存在なのではないかと思ったんです」
そこで樽井さんが考えたのが、長い間会社から離れることになる育休中だからこそ、会社の外へ目を向ける絶好のチャンスだということ。例えば、育休前とは違った切り口の提案ができたり、俯瞰した立場で自社の経営を捉えられたり--。他の会社でボランティアをすることで得られる視点を付加価値として提供できれば、自分が会社にいる意味を見いだせると思いました。
苦労したのはボランティア先を探すこと
実際にボランティアをやってみたら、キャリアへの考えも柔軟になったといいます。
「サイトのボランティア作業を通じて、働くママとキャリアについての記事をたくさん読みました。その中で、働くママたちがいろいろなやり方でキャリアを築こうとしていることを知ったんです。そのやり方は、自分が思っていたよりもずっとバリエーションがあった。すごく視野が広がりましたね」
会社から離れる育休は、自分のキャリアを見つめ直すチャンスでもあります。だからこそ、他の会社でのボランティアを気軽にやってみることをお勧めしたいと、樽井さんは言います。
「育休中にボランティアと聞くと、ちょっと意識が高い人がするもの、子どももいるのに大変じゃない、と感じる人もいると思うんです。でも、やってみると意外にそんなことなくって。仕事をバリバリやっていきたい人も、家にずっといることに寂しさを感じる人も、興味があれば気軽にやってみてほしいです」
ただ、ボランティアの受け入れ先を探すのは苦労の連続だったようです。
産前休暇に入るとすぐに、ボランティアができる企業を探し始めた樽井さん。育休中なので「子どもを連れて会社に行ける」「在宅での作業がメイン」という条件は譲れません。条件に合うボランティアがやっと見つかっても、仕事は何でもいいというわけにもいかず……。仕事内容の折り合いをつけるのも一苦労でした。
「自分でボランティアを探すのは辛かったですね。私で役に立てるのかな、子どもを連れて大丈夫かな、っていう不安や遠慮が常にありました。そんな中で勇気を出して踏み出した一歩を『ママのボランティアは受け入れてないんです』って断られたら、やっぱり心が折れますよね」
ちょっと涙ぐみながら当時の心境を語ってくれました。
他の会社でボランティアをやってみたいと思っても、受け入れ先を探すハードルが高ければ、気軽にやってみるというわけにもいきません。こうした育休ママたちのニーズを受けて、ママ向けのボランティアマッチングサービスを提供する事業者も現れています。
育休をもっと楽しく、もっと自由に
育休中のママが在籍する企業ではなく、あえて他の企業・団体でボランティアをやってみるというママボランのコンセプトについて、運営メンバーの金子麻由子さん(35歳)は「キャリアの棚卸しの機会を提供したい」と言います。他の会社で働いてみることが、自社ではなかなか見えない自分のスキルを客観視できる機会になる、というのです。
「自分では当たり前のことと思ってやっている仕事でも、『他の会社ではこんなに感謝してもらえるんだ』とか『このスキルは他でも通用するんだな』という気づきが得られます。自分の強みや志向の再確認ができるなど、キャリアの棚卸しができるんです」
自社を離れて、規模も業種も全く違う企業でボランティアをするからこそ見えてくる、スキルやキャリアの棚卸し。自分の強みや付加価値をしっかり見つけておくことは、復職した後も「自分は決してマイナスな存在ではない」という自信につながります。以前とは違った視点から会社に貢献しようと、仕事やキャリアに意欲的になれるはずです。
運営メンバーの1人である金子さんも、自身の育休中に他社でボランティアを経験。ボランティアをしてみて、「ママが自力でボランティア先を探す大変さ」を痛感しました。一方で、受け入れ先のベンチャー企業やNPO法人は人手不足。育休中に何かやりたいという意欲的なママたちの能力へのニーズが高いことを知り、ママボランを立ち上げました。
そんなママボランのサービスには、もう一つ隠れたコンセプトがあります。
それは、外部の力を借りることの大切さ。仕事と育児を両立していくためには、自分だけで何とか乗り切ろうとするのではなく、外部のサービスを使うことも必要です。ママボランでは、ボランティアをするママに、ベビーシッターや家事代行が利用できる補助チケットを提供するサポートもしています。
育休は「あくまで育児を最優先にする期間」。ママボランのサービスが、副業やインターン、アルバイトではなく、短時間の無償ボランティアの紹介であることも「子育てをおろそかにしては本末転倒」と考えているからです。
とはいえ、いまの働くママのイメージに疑問を持っています。
「結婚も出産もしていない女子学生が『育児と仕事の両立なんてできない』と感じている、という調査結果があるんです。確かに両立は大変ですが、やりがいは大きいし、楽しいこともたくさんある。でも私自身も『働くママは大変』という姿をどこか演じていたんじゃないかとハッとしたんです。『働くママは楽しい!』って言えない空気があって、それが若い女性に影響を与えてしまっているんじゃないかと。だからこそ、『もっと楽しもうよ』とママたちに伝えたいんです」
ママボランは今後、パパや独身の女性などにも対象を広げたいと考えているそう。現在は首都圏近郊の展開ですが、全国への拡大も目指したいとしています。
* * *
育休も後半に突入した樽井さん。かねてから関心のあった分野でもボランティアをしてみたいと、今回はママボランに登録して、自分にあった受け入れ先を探しています。
「今回はボランティア先を探すのがずいぶん楽で、助かります」と嬉しそうに話してくれました。
働くママって、楽しい。
育休中の過ごし方の変化は、働くママを取り巻く時代の変化を映し出しています。

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育休が変わる!新しい過ごし方
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育休が変わる!新しい過ごし方
WRITER
編集者・ライター
和田由紀恵
「育休中に他の会社でボランティアをするママが、増えているらしい」と初めて聞いたときは、「赤ちゃんを育てながらボランティア、スゴイ! 」「どれだけモチベーションの高い人たちなんだろう」と少々ビビっていた私。でも実際にお会いしてお話を伺ったら、先入観とは全く違う、気さくで前向きで一生懸命なママたちでした。ちなみにボランティアは、育休中でなくても紹介してもらえるそう。育休を取る人も、そうでない人も気軽にボランティアをやってみては。