働き方改革の記事2017.11.27
社員の健康にダイレクトな効果
なぜ注目されている?インターバル規制導入の実務ポイント
keyword: 働き方改革 実務 インターバル規制 裁量労働制 長時間労働
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2017.11.27 文章 / 星野千枝
残業規制よりも導入しやすい?インターバル規制に寄せられる期待とは
なかでも検討テーマとして大きく取り上げられているのが 長時間労働の是正です。働き方実現会議が2017年3月に発表した『働き方改革実行計画 工程表』によれば、週60時間以上働く30代男性は14.7%(p.29)とあり、家庭生活の両立や睡眠時間の確保が十分でない現状が透けて見えます。
そこで対応策として政府が準備に動いているのが、法改正による時間外労働の上限規制導入とインターバル規制導入に向けた環境整備です。
まず「インターバル規制」とは、残業時間を含む終業時間から次の始業時間まで一定時間を空けるよう会社で規制することを言います(「勤務間インターバル規制」とも)。
期待のかかるインターバル規制ですが、2015年時点で導入している企業の割合はたった2.2%(『工程表』p.41より)。導入数を増やすために政府は、終業から始業まで一定時間の休息を確保するよう企業に努力義務を課すことを検討し、並行して、導入割合を拡大するための助成制度創設を進めています。今後は助成制度と絡めた好事例の周知も積極的に進めていく方針なので、導入事例の情報も自ずと増えてくると思われます。
ここで、会社を説得するにあたり理解を深めておきたいポイントがあります。それはインターバル規制が、長時間労働是正のもうひとつの対応策“法改正による時間外労働の上限規制導入”と非常に相性の良い施策だということ。
先ほど紹介したとおり、インターバル規制は企業の努力義務となる一方で、時間外労働の上限規制は強制力をもった義務となる予定です。
そのため私たちが強く意識しなくてはいけないのは「どのようにして時間外労働を規制内に収まるようコントロールするか」ということなのです。
そもそも時間外労働が発生する理由は何でしょうか。先ほどの『工程表』によれば、最も多かったのは「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため」で、回答全体の44.5%にものぼりました(p.29)。
このことからは、残業を抑制するよう会社からは促されようとも“帰るに帰れない”社員の戸惑いがうかがえます。残業して仕事をすることが習慣化していたり、長時間労働が恒常化していたりする場合、安易に残業規制だけを強めると「そうはいっても現場はすぐに変われないんだ」と社員のモチベーションを下げかねません。
残業そのものを規制する難しさに比べて、インターバル規制は直接的に残業を規制するものではありません。生活時間のミニマムを定めて総労働時間自体を規制する主旨の制度なので、結果的に労働時間を抑制することができますが、今対応しなくてはいけない仕事を抱える社員たちにとっては理解しやすい施策であり、働き方改革担当者にとっても導入しやすい制度だと言えるのです。
導入例からみるインターバル規制
EU加盟国には、EU労働時間指令に基づいて労働者に24時間につき連続した11時間の休息時間を確保することが義務づけられています。
▼ 例:所定労働時間が9時~18時(休憩1時間)の会社の場合
→ 残業が発生し24時に終業したら、その11時間後=翌日11時からしか勤務させることができない。
※この場合、本来は労働時間である9時~11時までの時間は勤務免除となり、賃金がカットされることもありません。
一方日本では、インターバル時間および規制により就労できない時間の取り扱いについて、法的な定めはまだありません。
インターバル時間は、通勤・食事・入浴・睡眠などの生活時間確保の側面から考えて、EUのように11時間確保できれば理想的ですが、長時間労働の是正策として導入を考える会社で、いきなり設定するのはハードルが高すぎると思います。業務特性や労働時間の実態に応じて、段階的に時間を長くしていったり、職位や職種によって分けたりすることも検討しましょう。
日本で早々にインターバル規制を導入したKDDIでは、義務として8時間、努力義務として11時間の2段階のインターバル時間を設定しています。
また、就労できない時間の取り扱いについては、厚生労働省の就業規則規程例が示す通り、以下のように大きく2つのパターンが考えられます。
① 休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす場合
(勤務間インターバル)
第○条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。
② 始業時刻を繰り下げる場合
(勤務間インターバル)
第○条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。
ちなみに、EU加盟国の企業の多くは日本と同様に固定労働時間制を採用しています。固定労働時間制の会社でインターバル規制を導入しようとした場合、①のパターンが運用に適していると言えるでしょう。変則的な勤務に対応できる会社の場合は、②の始業時刻を後ろ倒しにする方法も検討できますが、労働時間の管理が複雑になることは否めないと思います。
導入のハードルと助成金制度
例えば、インターバル規制に向いているのは固定労働時間制の会社です。法的な定めはないもののインターバル規制の主旨を考えると、裁量労働制の場合はもともと労働時間について指示ができませんし、フレックスタイム制の場合は出社時間のフレキシブルさを阻害してしまうからです。
また業務の性質上、定刻に会社にいることが求められるような仕事より、顧客の都合に応じて、午後から新たな業務が発生しやすかったり、集中して一気に業務に取り組む必要があったりする職種に向いていると思います。
実際に制度を導入するにあたっては、インターバル時間とその取り扱い、対象者の範囲などの大枠が決まったら、今度は制度として運用していくためにインターバル時間の管理や申請方法などについても検討を進める必要があります。
特に残業削減のための具体的な施策をはじめて導入するという会社では、強引に制度導入を進めてしまうと、社員たちが隠れ残業にシフトしかねません。現場の上長や社員の理解を得ながら制度導入を進め、試験運用期間を設けるなど段階的な導入策を講じ、慎重に導入を進めていきましょう。
○ 制度導入で受給が見込める助成金(2017年11月現在)
【名称:職場意識改善助成金 勤務間インターバル導入コース】
管轄:厚生労働省
成果目標:事業主が事業実施計画において指定したすべての 事業場において、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入すること
助成額:取組の実施に要した経費の一部を、20~50万円の範囲で成果目標の達成状況に応じて支給
このほか地域独自の助成金も存在します。受給意向がない場合でも、対象となる助成金の資料に目を通すとどんなことを決めていく必要があるのか、どうやって制度導入を進めていったらいいのかヒントが得られるので、ぜひ目を通してみてください。

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WRITER
社会保険労務士
星野千枝
インターバル規制の話をすると「朝礼はどうしたらよいでしょう」という声がときどきあがります。朝礼の実施にこだわりを持つ経営者は多いものですが、一方で朝礼の必要性に疑問符を抱く社員も多いもの。働き方改革を担当される方はぜひ「朝礼って必要ですか?(廃止しませんか?)」というような直線的なアプローチではなく、実施の目的や内容に応じて、朝礼以外の手段を模索してみると、経営者の理解を得やすいかもしれませんよ。
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