働き方改革の記事2018.12.25
同一労働同一賃金を実現!
同一労働同一賃金を推し進めて、社内の人材の課題を突破
keyword: 働き方改革 実務 同一労動同一賃金 待遇 非正規
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2018.12.25 文章 / 星野千枝
同一労働同一賃金を進めるために、ターゲットをとらえる
同一労働同一賃金ガイドライン案には、“同一労働同一賃金は、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである”とあります。
同一労働同一賃金は、日本の労働市場特有とも言える正規雇用と非正規雇用の労働者の間に存在する不合理な待遇差を打破し、非正規雇用労働者の待遇改善を図ることを目的としています。
そのため、同一労働同一賃金を進めるうえで、非正規雇用労働者にあわせて正規雇用労働者の待遇を引き下げたり、非正規雇用労働者の待遇を今より下げたりするのはNGとされており、企業にとってはコスト増になる可能性が非常に高いのです。
ここでいう“正規”と“非正規”について2点だけ補足しておきます。
①「正規雇用労働者」には、労働契約法の5年ルールにより無期転換した社員も含まれる
同一労働同一賃金を考える際には、無期転換により有期雇用から無期雇用に転換した社員を「正規雇用労働者」に含んで考えます。業務や責任の範囲の違いから、正社員とは別に準社員やパートナー社員といった雇用形態を設けて待遇を分けている場合は、まずはその二者の間に不合理な待遇差がないか確認してみましょう。
②派遣社員は非正規雇用労働者の中でも、別枠で考えなくてはならない
派遣労働者に関しては、もともと労働者の派遣に関する法律の中で、派遣元事業者に対し派遣先の労働者の待遇を考慮することが求められていますが、同一労働同一賃金の推進によりさらに細かく待遇に関する基準が設けられる予定です。派遣元事業者から料金の値上げを迫られる可能性を認識しておきましょう。
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なぜ、正規雇用と非正規雇用には不合理な待遇差があるのか?
もともと日本では、フルタイムで働くことができる人材を正規雇用で囲い込むことが企業にとって一般的でした。その背景には、高度経済成長期の人手不足がありました。しかし時が経ちバブル経済が崩壊して、人件費の負担が企業に重くのしかかるようになると、人材の調整弁として非正規雇用を活用する企業が飛躍的に増えたのです。
こうして非正規雇用が増えた背景から、正規雇用と比べて人件費が安く、流動性を担保できることをメリットと考える企業が多くなりました。職務経験を積んでも、正規雇用と同種の仕事をしていても、入り口が非正規であることを理由に、待遇を分けることが許容されてきました。結果として、日本はヨーロッパ諸国と比べ、正規雇用と非正規雇用の処遇差が非常に大きい状況にあります。
同一労働同一賃金を推し進めるために、見直しの範囲をおさえる
同一労働同一賃金ガイドライン案では、“賃金等の処遇”と表現していますが、ここでいう“賃金等”には以下が含まれます。
・基本給
・基本給に付随して支給される各種手当
・賞与
・出張旅費、出張時の日当などの経費
また、金銭的な処遇に限らず以下のような福利厚生も含まれます。
・福利厚生施設の利用(食堂、休憩室、更衣室等)
・転勤者用の社宅
・慶弔休暇
・病気休職
・リフレッシュ休暇などの法定外休暇
これだけ見ると、コスト上昇の予感に頭を抱える企業も多いと思います。
重要なのは賃金等の「処遇の見直し」と並行して、キャリア形成・能力開発などの「機会の見直し」を行うことです。パートタイム勤務であることを理由に業務範囲を限定し、キャリア形成の機会を奪ってしまっていたり、非正規であることを理由に能力やスキルの開発の機会を設けていなかったりといったことはないでしょうか。
「処遇の見直し」だけを進めれば単なるコスト増ですが、非正規雇用の労働者の能力を高めることに重点を置き、生産性向上と処遇改善を並行して進めることにこそ、同一労働同一賃金を進める本当の意義があるのです。
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同一労働同一賃金の実現にあたり参考になる業種とは?
いろいろな企業の事例をみていると、女性社員やパート社員の活用を早くから意識し、同一労働同一賃金が提唱される以前から、多様な社員の能力評価やキャリア開発に取り組んでいた事例が多く見られる業種があります。それは何の業種でしょうか? 多くの人にとって身近な存在である、スーパーマーケットといった小売業です。同一労働同一賃金の話をすると、「うちの会社の仕事だと、職種が多くて役割や能力の基準を明確にすることが困難……」という反応が多いのですが、スーパーマーケットも青果、精肉、総菜、レジなど多くの部門を抱え、部門ごとに多様な仕事があります。身近なところに好事例やヒントがあるかもしれませんよ。
同一労働同一賃金を進行するために、均等・均衡の判断軸を養う
ここでいう均等・均衡とは、業務内容や業務における責任の程度のほか、将来的に求める役割や配置転換の有無などの考慮要素(同一労働の判断要素)をもとに、同じケースなら待遇も同じ(均等)、異なるケースなら異なる程度に応じたバランスのとれた待遇(均衡)を求めるものです。また通勤や福利厚生施設の利用など、そもそも業務に関連性のない待遇部分については均等待遇が求められます。
社内にいる正規の方と非正規の方とを比較した際に、業務内容や業務における責任の程度、将来的に求める役割や配置転換の有無などの要素がまったく同じというケースは少ないでしょう。その場合は、異なる程度に応じて待遇に差を設けることは可能です。ただし単純に「正社員とパートでは将来的に期待する役割が異なるから」といった理由で済ますことはできません。異なる程度と待遇のバランスが取れていることが求められます。
待遇差を見直す項目一つ一つに対し、まずは「業務と関連性があるのか」、関連性がある場合は「どういった意図で支給または付与しているものなのか」を明確にしましょう。その上で「正規と非正規で差を設けることの合理性はあるのか」を軸として見直しを進めていきましょう。最終的に待遇差を残す項目については、差を設ける理由について説明できる状態にしておきましょう。
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正規と非正規の待遇をどのくらい近づけることがゴールとなるのか?
同一労働同一賃金ガイドライン案は、パートタイム労働者の活用が進んでいるヨーロッパ諸国の事例を参考にしている点が多く見受けられます。フルタイム労働者の1時間あたりの賃金を 100とした場合、日本のパートタイム労働者の賃金は56.6、ヨーロッパ諸国は70~80程度と差があります。見直しを進めるうえで難しいのは、正規と非正規の待遇差のバランスかと思います。この点を自社に置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。
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同一労働同一賃金を実現!
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社会保険労務士
星野千枝
日本には「正社員なら安心」といった価値観が根付いています。女性が結婚相手に求める条件のひとつに “正社員で働いていること”が挙げられることが多いのは、その証明と言えるでしょう。同一労働同一賃金が浸透し、正規・非正規の区分が薄れていくことで、この価値観も変わっていくのでしょうね。企業も働く人も、正社員の定義を見直すときにきています。