「働き方改革」の不都合な真実の記事2018.06.26
働き方改革はすばらしいか
働き方を自分の頭で考えるために|「働き方改革」の不都合な真実
keyword: 「働き方改革」の不都合な真実 常見陽平 おおたとしまさ めくれバ めくれバ! 1周年
2018.06.26 文章 / 和田由紀恵
働き方改革への違和感
新聞の1面にこんな文字が踊るようになったのは、安倍政権が強力に推進する「働き方改革」あってこそなのかもしれません。
ワーキングマザーの筆者などは「もっと働きやすい環境づくりに国が動いたのか」と当初は驚きとそれから期待をもって、働き方改革の動向を見守っています。政府が旗振りをすることで、「働き方」について企業もメディアも本格的に動き出しました。“労働者にとってすばらしい未来”が本当にやってくるような気がしないでもありません。
それでも一連の働き方改革の報道に、ある違和感が残るのは、穿ち過ぎでしょうか。
例えば共働き家庭は、働き方改革で恩恵を受けるメインターゲットのように思えます。ところが、子育てをしながら日々を必死にやりくりする彼らには「私たちって、国が思うように動かされているだけのような気がする」「戦中の『産めよ殖やせよ』じゃあるまいし」と半ば、自嘲気味に働いている側面もあるのです。それでも共働きを続けるのは、“共稼ぎせずにはいられない現実”があるから。年金や賃金の上昇を当てにできた時代はとっくに終わりました。稼ぎ手が1人だけの家庭なんて、不安すぎます。2人で働かずにはいられないし、生活だって回らないのです。
働き方改革とは何のためのものなのか。日本が再び経済成長するために必要な施策なのか。そもそも、日本は成長し続けなければならないのか。子どもを増やさなければならないのか。
もちろん大前提として言いたいのは、“働く選択肢を増やすことは、人生の選択肢を増やすことにつながる”ということ。働き方改革が、その強力な追い風の役割を果たしているのは確かです。
考えれば考えるほど、たくさんの論点がぎゅっと詰め込まれている働き方改革。長時間労働やブラック企業、成長産業への人材流動に少子化対策まで、実に幅広く、それだけによくわからないのが、働き方改革なのです。
働き方改革が搾取される人を増やす
対談形式で書かれた本書は読みやすく、大きくは6つほどの論点から働き方改革を検証します。著者2人はいずれもリクルート出身で、フリーランス経験もある専門家。
対談形式だからなのか、はたまた働き方改革の論点が多すぎるからなのか、議論がやや飛んでしまう傾向はあります。それでも、識者の著作やお二人の幅広い見識をベースに展開される鋭い議論には、必ずやひきこまれるはず。一般に語られる働き方改革を角度を変えて捉えると、こんなにも違う論点が見つかるのかと思わずにはいられません。
筆者がとりわけ興味深かったのは、「働き方改革が搾取される人を増やす」という論点です。
“労働問題を解決します、という話だったはずが搾取の問題につながっていく構造。”と指摘する常見氏は、「就業支援系搾取」を例に挙げています。インターンシップやトライアル雇用など、就業を支援する名目の労働。それらは耳に心地よく、一見問題がなさそうですが、安く(あるいは無料で)人を使う手段として、ブラック企業以上の労働を強いられる実態も散見されるのだとか。
さらに、おおた氏は“結局、相当気を付けないと「自由な働き方」は搾取される側になる。”と言います。
もちろん「自由な働き方」が悪いわけではありません。ただ、その仕事がどんな内容で、本人にとってメリットのあるものなのか(使い捨てでないか)を見極める必要がある、と警鐘を鳴らします。
柔軟な働き方、週に◯日の出社――。一見、すばらしい、夢のような条件の裏に何があるのか。例えばその条件は、小規模な会社のプレイヤー兼経営者が、「自分はこんな条件だとパフォーマンスが良い。だから、みんなにもこんなふうに働いてほしい」という思いから設けたものなのかもしれません。それでも、それだけではないかもしれない。「自由な働き方」をぶら下げることで不当に労働力を買いたたき、使い捨てたいのかもしれません。労働者のキャリア形成なんて、どうだっていいのかもしれません。
常見氏は本書の巻末で、ある未来像を描きます。それは「労働2リーグ制」というもの。ここでは詳細に触れませんが、1部リーグに入れず、2部リーグに甘んじる人々の実際は……。
昭和スタイルの経済成長を前提にした労働構造は、誰の目にも限界であることは明らかで、見直すべきです。けれども、働くということは、生きること。労働構造をどう変えていくか、ということは、私たち一人ひとりがどう生きるかという根本を問う重大なテーマです。
働き方改革を否定したいわけではありません。ただ、なんだかよくわからないまま、重要な論点が全部ごった煮にされたまま、敷かれたレールを私たちは本当に走りたいのか。
重要な局面に立つ今だからこそ、多面的に自らの頭で考えたい。その補助として、きっと役に立つ1冊です。
『「働き方改革」の不都合な真実』の書籍情報
著者: 常見 陽平 おおた としまさ
初版発行: 2017/11/17
出版社: イースト・プレス
価格: 1512円(税込)
サイズ: 単行本
頁数: 184ページ
ジャンル:ビジネス
読了目安: 3時間
ISBN:978-4781615875
WRITER

編集者・ライター
和田由紀恵
「未来の働き方メディア」と名乗るPARAFT。週◯日から、とか、在宅勤務可の仕事を多く紹介しています。でも、搾取に加担するために求人案件をご紹介しているわけではありません。あくまでも、柔軟な働き方を選び、その方のキャリアをもっと豊かにしていただくことを願っています。一方で、そんなダークサイドに落ちてしまわないようにと、背筋を正す思いで読んだ1冊でした。
投票受付は終了しました
0/3
あなたの投票数

![めくれバ! : 3位 > 働き方を自分の頭で考えるために|「働き方改革」の不都合な真実:r000018003384 | PARAFT [パラフト]](/files/alias_m1/000018003384/jj5cl3760aqxac8f602ww140.jpg)
働き方改革はすばらしいか
この記事が気に入ったらいいね!しよう
PARAFTの最新記事をお届けします。
┳BOOKS┻
働き方改革はすばらしいか
コメントはありません