礼儀の記事2018.12.18
礼儀2.0がやってきた
礼儀2.0は相手の時間を奪わないマナーの新常識。ポイントは?
keyword: 礼儀 礼儀2.0 生産性 マナー アップデート
2018.12.18 文章 / PARAFT編集部
礼儀2.0で変わる礼儀、変わらない礼儀
礼儀にはバージョンがあり、いまは礼儀2.0の時代である。一刻も早くアップデートせよ――。
Web上でこんな議論が起きています。
きっかけはVRエバンジェリストのGOROman氏が提唱した礼儀2.0の概念。かつての礼儀を1.0として礼儀2.0との違いを説きます。
礼儀の定義が変わってきてる気がした
— GOROman (@GOROman) 2018年4月13日
礼儀1.0
相手を重んじる。自分の時間を犠牲にし、時間を相手のために使う。直接会う。スーツなど服装をわきまえる。
礼儀2.0
相手の時間を奪わないようにする(電話しない、リモートで済むものはリモート)
つぶやきの反響を受け、GOROman氏が執筆した電子書籍『礼儀2.0』(booth)が話題になりました。本書より引用すると礼儀2.0時代の礼儀とは「相手の時間を奪わない」ことだと主張します。
これまでの礼儀1.0というマナーは「日本人は礼儀もアップデートできていない。礼儀2.0世代が感じる「相手の時間を奪う」非効率なマナー」(BUSINESS INSIDER)というように若手のビジネスパーソンから非難の的となっているのです。
▼ 礼儀1.0世代だって無駄だと思っていたことがある
礼儀1.0は礼儀2.0と比べて無駄が多いというのが若手から嫌われる理由です。
しかし礼儀1.0をもって生きてきたこれまでのビジネスパーソンも「意味がないのでは…」と思う数々の礼儀に直面してきたのではないでしょうか。
例えば、メールを送ったあとに確認の電話を入れるという場面で「かえって相手に手間を取らせて面倒なことになっていないか」と、考えてしまう瞬間があったはずです。
飲み会での振る舞い方、暑くても寒くても着用するスーツ、電話での受け答え、エレベーターの乗る位置、ハンコの押し方……。無駄が多く、形骸化した礼儀はいつの時代も槍玉に挙がっています。
そのため「古い礼儀 VS 新しい礼儀」の構図は常にビジネスパーソンの間で話題となり、これまでも議論が重ねられてきました。
「古い」と思いながらも、今までビジネスパーソンが礼儀を守ってきたのは、「関わる人や組織に不快な思いをさせたり、迷惑をかけたりしたくない」という気遣いがあったからです。
確かに守ることが目的になってしまった形だけの礼儀はたくさん存在しています。それでも礼儀の出発点は相手を思い、気持ちよくビジネスをすすめる配慮だったはずです。
礼儀1.0を前提にして、若手の礼儀作法を正そうとすると「時代についていけてないダメおじさん」「無意味な作法に固執するうっとうしいおばさん」として煙たがられてしまいます。若手を指導する立場になったはずなのに「礼儀をアップデートせよ」と迫られる側になるなんて……。
礼儀2.0への更新を呼びかける若い世代は、礼儀1.0に内包する気遣いの心を失ってしまったのでしょうか。
▼ 調和とともに合理性を大切にする若者
今の若者の持つマナーや礼儀にはどんな傾向があるのか大学生意識調査プロジェクト(東京広告協会)より見てみましょう。本調査の報告によると、礼儀1.0が大切にしてきた気遣いの気持ちは、今の若者も変わらず持っていることがわかります。
・ 友人や知人の目を考慮し、空気を乱すようなことはしない
Q友人や知人からどう思われているか気になる方か
「気になる・・・計73.3%」「気にならない・・・計26.7%」
Q自分のことを空気が読めるタイプと思うか
「そう思う・・・計72.7%」「そう思わない・・・計27.3%」
今の若者は「自分」より「まわりがどう思うか」を重視しています。また7割以上の大学生は空気を読むタイプであると自称しています。わざわざ場や関係性を壊すようなことはしないのです。
続いて同調査を見ていくと、友人やまわりの人との関係を大切にしつつ、ものごとの「合理性」や「効率」を優先する若者の姿が浮かび上がりました。
・ 「合理的か」「効率がいいか」で行動する
Q日常生活の行動について
カーシェアリング/レンタカーでデートに行くことに抵抗がない
「あてはまる80.6%」「あてはまらない19.4%」
近くのコンビニであればすっぴんや寝癖がついていていたりしても気にならない
「あてはまる73.8%」「あてはまらない26.2%」
クーポンなどの割引サービスをデートで使うことに抵抗がない
「あてはまる72.6%」「あてはまらない27.4%」
若者にとって大切なのは手間をかけて見栄を張ったり、形を取り繕うことではありません。金銭的な損得、合理性や効率があるかどうかで行動を決めるようです。
「授業内容に関連する内容を調べるため、授業中にスマホやPCをいじる」
「授業内容を正しく記録するため、板書・スライドをスマホで撮影する」
「譲るべき人がいない場合に、優先席に座る」
同調査によると今の若者にとって、これらの行動は「自分もするし、他人がやっても気にならない」ことだそうです。「一見マナー違反に見えても合理的で効率がいいのであれば、あり」という基準を持っています。
● まわりの友達や身の回りの人との和を大切にする
● 無駄なことは避け、多少のマナー違反や無礼な振る舞いは気にしない
「まわりの人との関係を大切にする」でも「合理的で効率がいいことなら無礼と感じない」とは矛盾しているようにも見えますが、これが若者の新しい行動基準になっていると結論づけています。
▼ 1.0も、2.0も礼儀の本質は同じ、でも気遣いの形がシフトした
まわりの人との和を乱さず、不快な思いをさせたくない。これは礼儀1.0を生きてきたビジネスパーソンも、これから礼儀2.0を身につけていく若者にも共通する思いです。
ただ、「合理性」や「効率化」を優先するという基準にシフトしていることが上記の調査から言えるでしょう。
前出のGOROman氏の「相手の時間を奪わないようにする(電話しない、リモートで済むものはリモート)」という提言も「合理性」「効率化」に礼儀の指針を置いているのです。
この新しい指針が礼儀2.0の正体のようです。
礼儀2.0にアップデートするべき理由
礼儀1.0の様式に慣れてしまった人だと、今までのやり方を変えることに抵抗を覚えるかもしれません。合理性や効率化を重視することが新しい基準といわれても、それは面倒なことをショートカットしているだけで、礼儀を欠くのでは? と思う人もいるでしょう。
しかし今、礼儀1.0に固執することがかえって失礼にあたる……。
そんな礼儀のパラダイム・シフトが起きているのです。今、なぜビジネスパーソンに礼儀のバージョンアップが迫られているのか。その理由を探ってみましょう。
▼ 【礼儀2.0に更新するべき理由①】
テクノロジーの発達で顔を合わせない働き方が増えた
テクノロジーの発達とともに、ビジネスにもICTの活用が進みました。働き方改革のブームもあって、PC、スマホを使ったリモートワークの導入が増えています。電話やメールでコミュニケーションをとることもありますが、より手軽に、リアルタイムな会話をするため、チャットツールの導入も進んでいます。
これからはバーチャルオフィスに出社することもありえます。移動時間や、出社・訪問にまつわる礼儀1.0にかける時間は本当に価値があるものなのか改めて問われるようになった結果、オフィスへの物理的な出社や、訪問は非効率的なビジネススタイルだとみなされつつあります。ともなって出社や訪問に付随する礼儀1.0は徐々に消滅し、リモートで仕事がすむように手配するのが新しい礼儀として定着していく運命にあります。
▼ 【礼儀2.0に更新するべき理由②】
時間はビジネスの貴重なリソースとなった
新しいテクノロジーがどんどん生み出される現在、未来を予測しながらスピードをもって事業を動かせるかどうかがビジネスシーンの勝負の分かれ目となっています。今まで以上に時間は貴重なリソースとして認識されるようになりました。
ビジネス市場がスピード勝負になると、相手に無駄な時間を使わせることはビジネスの妨害とも受け取られかねます。アポや会議の開始時間を守るだけでなく、以下のようなことも新しい礼儀と認識されています。
・アポや会議の前に情報を共有する
(時間を有効に使うため)
・アポや会議の終わりの時間を守る
(相手の次の時間を無駄にしない、ミーティングルームの次の予約者を待たせない)
・飲み会をしない
(お酒を飲むと長くなる……といったことを避けるため、朝食やランチでの会食にシフト)
時間を奪わないことを礼儀として重んじるならば「手間をかけさせること」も相手の時間(リソース)を奪う行為として失礼にあたります。
・相手にとって手間のかからないツールを使う
(メールよりチャットを使う、URLを共有するなど)
・結論から先に、コンパクトにまとめてコミュニケーションする
(表現のしかたや、見せ方に無駄がないようにする)
▼ 【礼儀2.0に更新するべき理由③】
転職人口の増加や国際化が進み、従来の関係性が消滅した
総務省の労働力調査(総務省統計局)によると、2017年の転職者数は5年前にあたる2012年以来、増加傾向にあります。
特に目立ったのは35歳以上の中高年の転職市場の動きです。35~44歳で2万人の増加、45~54歳で10万人の増加と35歳以上の転職者数が増えています。
これまで転職をしてこなかった35歳以上も活発に転職する時代になりました。今、オフィスでは年下の上司、年上の部下、年齢の離れた同僚、といった年齢やキャリアに基づかない関係が続々と形成されています。
若さが有利に働くような市場では若者が年長者以上にリーダシップを発揮する場面が多く見られます。Tシャツ姿の若者にタメ口で話しかけたら会社の代表者だった……なんてことも容易に想像できるのです。
また女性の社会進出や、男性も家事・育児へコミットする働き方は確実に浸透してきています。
そのため、年齢や性別で差をつけず、どんなメンバーにも敬意を払うことがより当然のこととして認識されるようになりました。
「年長者というだけで無条件に敬う」「年下だから無条件に奉仕する」「女性がお茶くみを担当する」ような儒教思想(年齢や性別に基づく上下関係)をベースとした礼儀1.0は、機能しなくなってきているのです。
外国人労働者や、地方に住む顔や年齢や性別もわからないメンバーと一緒に仕事をするとき、儒教的な関係にこだわり続け、礼儀1.0のスタイルに執着する人はどのように見えるでしょうか。
いつまでも礼儀1.0に固執していると、多様なメンバーとスムーズな連携が取れなくなります。そういった人はビジネスの推進を阻害する存在として忌避される人材になってしまうのです。
▼ 【礼儀2.0に更新するべき理由④】
礼儀1.0に基づいた文化が社会問題化した
「年長者にお酌をしてまわる」「若手が宴会芸を披露する」「女性を気遣って仕事を制限する」「上司が帰るまでサービス残業につきあう」といった礼儀1.0をベースにした労働文化は現在、ハラスメントやコンプライアンス違反として扱われます。そういった文化は、事業そのものに直接ダメージを与える損害として排除される動きにあります。
礼儀1.0を拡大解釈すると「年下だから」「年上だから」「女性だから」「男性だから」という属性に基づいた強制力や偏見が働きやすくなるのです。
***
● 属性にとらわれず、さまざまなメンバーと働く
● 時間に対し生産性の高い労働を求められるようになった
礼儀2.0の生まれた背景はこのあたりにありそうです。
礼儀2.0時代のビジネスパーソンに求められるものとは
今のビジネスシーンをリードするキーパーソンは仕事のスタイルを更新し続けています。そのため早くから礼儀2.0にアップデートし、その必要性を説いています。代表的な方を何人か紹介します。
【堀江貴文 氏 │ 実業家、著作家、投資家】
旧式のスタイルにとらわれない人です。時間の貴重さに誰よりも早く気づき、ビジネススタイルに反映しています。
電話とかつかわねー
— 堀江貴文(Takafumi Horie) (@takapon_jp) 2017年3月9日
電話は嫌い、非通知出ない 人事も驚く今どきの就活生 (NIKKEI STYLE) -https://t.co/YSDH9EsXqI
特に「電話してくる人とは仕事するな」(東洋経済オンライン)という主張はよく知られているのではないでしょうか。
堀江貴文氏は電話をかけることは相手の時間を奪うこと、つまり失礼なことだという考え方の持ち主です。時間は資源であると多くのビジネスパーソンに知らしめました。
【澤円 氏 │ 日本マイクロソフト、琉球大学教授 ほか】
日本マイクロソフトのテクノロジーセンターのセンター長でありながら、大学教授やベンチャー企業の顧問も勤める澤円氏。日本人の働き方は「礼儀正しく時間を奪う」(ログミー)ものだと指摘しています。
「失礼がないように」と顔を合わせて行われるミーティングこそ、人の時間を奪うことにあたりかえって失礼だと言います。これには多くの人が納得できるのではないでしょうか。
【ちきりん 氏 │ 社会派ブロガー、紀行文筆家】
匿名ブロガーでありながらオピニオンリーダーとして支持を集めるちきりん氏は、現代を生き抜くための考え方を提示します。働き方改革という言葉が現れる前から、自分の時間や生産性にこだわったワークタイルのありかたを提唱していました。
パワーポイントの資料を見せてもらうと、「作るのにかけた時間6j間、考えるのにかけた時間15分」みたいな資料がいっぱいあるよね。それをまた1時間かけて読み上げよう(説明しよう)とするから、「勘弁して」って思う。無駄にするのはあなたの時間だけで十分。あたしを巻き込まないで。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2013年4月6日
このつぶやきが刺さる人は、まだまだいるはずです。
【田端信太郎 氏 │ 株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 本部長】
LINEからZOZO TOWNへ華麗なる転職が話題となった田端信太郎氏。ZOZO田端氏の仕事論「接待ゴルフはやらないと決めてます」(NEWSポストセブン)のインタビュー記事のなかで「ソーシャルメディア外交活動をしています(笑)。接待ゴルフより効率的だし、僕にとっては得意なこと。」と語りました。接待ゴルフは社交のひとつのかたちとして否定はしないが、同じ社交でもSNSでのやりとりのほうがずっと効率がいいと言います。
「僕は子供を抱っこしながらでも、ツイッターしています。」
子供を抱きながらスマホ片手に社交する――。その姿は新しい働き方や礼儀のかたちを象徴しています。
▼ ビジネスパーソンはアップデートし続けなくてはいけない
礼儀1.0を叩き込まれ、守り続けてきたおじさんまたは、おばさん社員。そのような礼儀1.0世代がかつて新入社員だったころから、ビジネスのあり方や働き方は猛スピードで進化しています。しかし礼儀はなかなか進化しませんでした。
今はテクノロジーを使いこなし、生産性にこだわる人がビジネスシーンをリードしています。その価値観をフォローする世代が社会人デビューし、ビジネスの中核を担うようになってきました。
礼儀1.0の昭和スタイルで働くビジネスパーソンとやりとりするぶんには礼儀をアップデートする必要はありませんでした。しかし新しい価値観を持ったビジネスパーソンが増えた現在、礼儀もアップデートすることが求められているのです。
▼ 今も未来も、大切なのは相手への気遣い
いつでも、どこでも、誰とでも働くことが可能になった時代、思いもよらないほど意外なメンバーと働くことが想定されます。
一緒に働くメンバーの生まれ育った地域、年齢、性別、置かれている環境が違えば、大切にしている価値観も違ってきます。
唯一、万人に等しく与えられているのは時間です。そしてテクノロジーの発達や新しい働きかたとともに、時間はあらゆる人にとって、いっそう大切なものになりました。時間に対する意識の持ち方が新しい礼儀のかたちとして現れるようになったのです。
儒教の価値観で自分の時間を犠牲にし
相手に時間や手間をかけることが思いやりであった礼儀1.0。
時間あたりの価値が大切となり
相手の時間を奪わないことが思いやりとなる礼儀2.0。
時代とともに思いやりのかたちは変わりました。
しかし相手を気遣う気持ちはいつの時代だって変わりません。そう思うと礼儀2.0が大切にしている新しい価値観も「なるほど」と思えるのではないでしょうか。
▼ その他の礼儀やマナーも身につける
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編集部チーム
PARAFT編集部
これから雇用の流動性はさらに高まり、ともに働くメンバーはより多様になっていくことが予測されます。2.0に更新しても時代とともに3.0に更新するときがくるはずでしょう。いつの時代も礼儀の本質にあるのは相手を思う気持ちです。その気持ちがあればバージョンアップすることはそう難しくないように思えます。