日本再興戦略の記事2018.08.21
現実を直視する実行力
立ちすくむな、わらしべ長者たれ
keyword: 日本再興戦略 ビジョン めくれバ 仕事への情熱を沸き立たせる 実行力
2018.08.21 文章 / 和田由紀恵
準備体操をする日本を直視しよう
というわけで前置きが長くなりましたが、恥ずかしながら落合氏の著書を初めて読みました。……でどうだったかと言うと、ちょっと心拍数が上がるくらいおもしろかった。一気に読みました。これまでの“当たり前”を疑い、違う視点を投げかける展開に、「そんな考え方があるのか」とワクワクしました。
近年のマスメディアは、ちょっと不気味になるほど日本礼賛を繰り返しています。日本の技術はすごい、日本食は世界に誇る食文化だ、伝統芸能があって誇らしい……。すべてそのとおりです。そうした「日本のすごい」を支えている方々は本当に素晴らしい。でもその事実をメディアで消費するだけの私たちは、何を生むのでしょうか。落合氏は本書で、かつての社会の仕組みこそが素晴らしかったが、その仕組みの消費期限が過ぎた今、新たなビジョンを構築しなければならないと主張します。
その、ビジョンを構築する考察の道筋として、本書に盛り込まれたトピックスは多岐にわたります。欧米や日本、テクノロジーに政治、教育、働き方などと非常に幅広い。中には、一部から指摘や批判のある箇所もあるようですが、それもひっくるめて興味深い内容です。
今の日本はまだ、新しい仕組みづくりに向けて、準備体操をしているところでしょう。既存の“当たり前(仕組み)”を壊して、何らかの仕組みへ頭も心も社会も変わるべき時点に来ています。そのことは、おそらく多くの人が何となくわかっています。でもどう壊せばいいのか、何を頼りにしていけばいいのかよくわからない。ただただ不安で仕方ない。向き合うべき新しい仕組みへの道筋から目をそらし、懐古主義的な日本礼賛に私たちは安心を求めているように思えます。
本書はそんな、不安と停滞に立ちすくむ中堅から若い世代までを現実へ引き戻す本です。“当たり前”を壊す準備体操はすでにあちらこちらで進んでいて、最早止められない不可逆な流れなんだ。でもそれは、決して暗い未来ではないし、打ち手だってちゃんとある。その激励にも似たメッセージをしっかりと伝えてくれるのが、本書のおもしろさ、ワクワク感の理由でした。
わらしべ長者の実行力
「ワークライフバランス」という言葉は、すっかり世に定着しました。ところが落合氏は、これからは「ワークライフバランス」ではなく「ワークアズライフ」だと主張します。「ワークとライフを対比でとらえる」のではなく「ワークとライフが無差別」となる時代になると言うのです。
すべての人が「ワークアズライフ」に移行するかは、疑問の残るところ。それでも確実に、この流れは押し寄せてきているように思います。“ワークを時間で区切って評価するのではなく、生産物とクリエイティビティで評価するようになる”と本書にありますが、それはつまり、ワークを人生の中にポジティブに取り込む必要があるということ。ワークを人生の楽しみと捉え、断続的にワークに取り組むことでクリエイティビティを高めていく方向に、世の中は徐々にシフトしています。
AIがさらに普及すれば時間コストはかなり圧縮されるでしょう。その分、生産物の質、ユニークさとクリエイティビティが重要になってくるのは、よく指摘されるところです。ワークが生活の一部であり、遊びともとらえられる。「ワーク=ストレスフル」の図式から脱却し、ストレスマネジメントを図るのは、新たに求められるスキルなのかもしれません。
さて突然ですが、わらしべ長者の話をご存知ですか。ただの藁しべから始まって、どんどん物々交換をするうちに長者になったという昔話です。棚ぼたとも取れる話ですが、落合氏はわらしべ長者の「行動力」を評価します。とりあえず目の前のことをやってみたら結果が出て、やってみたら結果が出て……という「考え込むより先に、リスクをとってでもまずはやってみよう」という行動力を。
落合氏は、国立大学の教員という超安定ポジションを辞してまで、何足ものわらじを履いていろんなことを試しています。まずは行動してみよう。当たり前を疑え。トライアンドエラーを積み重ねよう……。自らの言葉をこの瞬間も、落合氏は実行しています。
かの吉田松陰は29歳で亡くなったそう。当時よりずっと平穏な時代に、私たちは長寿を生きます。どんな仕事が未来に生き残るかなんて、どんな仕組みが未来に出来上がるかなんて、誰にもわかりません。「とにかく目の前にある、これだと思うことに挑戦すればきっと、未来は開ける。」「立ちすくむな」「座して批評するな」。30代の落合氏のメッセージは、同時代を生きる私たちの働く情熱を、きっと沸き立てるはず。
『日本再興戦略』の書籍情報
著者: 落合 陽一
初版発行: 2018/1/31
出版社: 幻冬舎 (NewsPicks Book)
価格: 1512円(税込)
サイズ: 単行本
頁数: 254ページ
ジャンル:社会学
読了目安: 3時間
ISBN:978-4344032170
WRITER

編集者・ライター
和田由紀恵
勢いづいて、『10年後の仕事図鑑』も読んだ私。重複する箇所もありましたが、共著の堀江氏との掛け合いもおもしろく、こちらも一気に読めました。落合氏が考えていることの概要を把握するには、本書の方が充実した内容となっています。かつての幕末志士のような人物が再び現れるのか――。私たちが前を見て、仕事を愚直に積み重ねていくうちに、その答えは明らかになるかもしれません。
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