日本ボロ宿紀行の記事2019.04.10
失敗から学ぶプロの強さ
懐かしく愛すべき“ボロ宿”/日本ボロ宿紀行|高橋和也さん前編
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物語は、父親の急死で芸能事務所を継ぐことになった27歳の篠宮春子(深川麻衣)と48歳の一発屋ポップス歌手・桜庭龍二(高橋和也)が、地方の“ボロ宿”を巡りながら大量に売れ残ったCDを売り切る地方営業の旅に出るというもの。平成生まれと昭和生まれの凸凹コンビがおりなす、一発逆転「お仕事」ドラマです。
ロケの舞台となるのは、日本各地に実在する”ボロ宿”(注)。たくさんの宿泊者から愛され、昭和の空気をいまに留めるその佇まいには、幼い頃にあった暮らしの気配を多くの人が感じるはず。個性豊かな”ボロ宿”を映像で観る魅力もさりながら、ドラマの中でもっとも惹きつけられたのは主演2人のキャラクターです。春子と龍二の、信頼関係の強さ。落ちぶれた今でも、歌手としてマイクを握るときの龍二に見えるプロ意識。 仕事に向き合う姿勢の強さに惹かれたPARAFT編集部が、桜庭龍二役を演じる高橋和也さんに話を伺ってきました!
(注)ボロ宿:それは決して悪口ではない。歴史的価値のある古い宿から、驚くような安い宿までをひっくるめ、愛情を込めて“ボロ宿”と呼ぶのである――(番組より引用)
【高橋和也さん プロフィール】
1969年東京生まれ。93年「男闘呼組」を解散後、アメリカ放浪の旅を経て、94年、舞台『NEVER SAY DREAM』、映画『KAMIKAZE TAXI』で俳優活動を本格的に開始。以後、その確かな演技力によって舞台、映画、TVにと幅広く活躍している。ミュージシャンとしては、カントリーミュージックを主体としてライブハウス中心に活動を展開中。
ドラマ『日曜劇場 集団左遷!!』(TBS・日曜夜9時、4月21日より放送)に出演。
ドラマ『日本ボロ宿紀行』(テレビ東京)のBlu-ray BOX&DVD BOXが6月26日に発売。
7月5日には、札幌でカントリーライブを予定。
ドラマ『日本ボロ宿紀行』(BSテレビ東京、毎週水曜、深夜0時~)再放送中です!見逃した方はぜひご覧ください。
2019.04.10 文章 / PARAFT編集部
郷愁を呼びおこす、愛すべき“ボロ宿”たち
高橋和也(以下、高橋):僕自身は“ボロ宿”がけっこう好きなんですよ。共演した春子役の(深川)麻衣ちゃんも“ボロ宿”好きで、楽しんで撮影しました。“ボロ宿”にいると郷愁が呼び起こされるんですね。
例えばドラマに出てくる、天井の蛍光灯からぶら下がる長い紐。いつの間にか見かけなくなったけど、以前はどこの家庭でも、布団に入るとその紐を引っ張って、明かりを消したものです。
幼い頃の暮らしにあった、モノや匂いや空気。ふだんは忘れている記憶が、自分のDNAに確実に刷り込まれていて、それが“ボロ宿”をきっかけによみがえる。
そんな愛すべき“ボロ宿”には、一つとして同じ宿は存在しないからこそ、維持に努めている人たちがたくさんいます。それでもロケをした宿の中には、この撮影を最後に廃業した宿もあるんです。老朽化したり、経営が困難になったり、後継者がいなかったり――。
だからこそ、撮影には気をつかいましたね。何といってもロケをする“ボロ宿”は、オーナーの方が実際に生活をされている場なんです。それなのに撮影の都合だからと、置いてあるモノを問答無用で動かすし。大切にされているモノもあるだろうに、申し訳なくて冷や汗をかきました(笑)。もちろん原状復帰はしましたけどね。
龍二は落ちぶれてもプロの歌手。キャラクターの表現を追求した役作りとは
高橋:スナックを次々に回って歌うという設定でしたから、撮影は大変でしたね。実際に営業しているスナックで撮影させていただいたので、本物のお客さんもいるんです。酒が入って気持ちよくなっているおじさんが、入っていく撮影隊に「何なに?」って絡んできちゃう(笑)。僕や麻衣ちゃんがスナックに飛び込んで「すみません、撮影させてください!」って挨拶に回って、お客さんに説明して。
――龍二がスナックで歌うシーンは、実際に撮影現場で高橋さんが歌っているんですか?
高橋:スナックのシーンもそうですが、龍二が歌うシーンは全て吹替なしで撮らせてもらいました。本当は吹替の方が、編集するのは楽なんですよ。外で歌う場面もあるし、生で撮ると雑音まで拾ってしまうから、吹替の方が安定するんです。それでも無理を言って全部、生で歌わせてもらいました。撮り直しや角度を変えた撮影で、数えきれないほど歌うから大変なんだけど、表現者であり歌手でもある、僕のこだわりです。
――苦労して生で歌ったのは、龍二に垣間見える“プロ歌手”としての仕事への誇りを表現されるためなんですね。
高橋:そうですね。ふだんの龍二はどうしようもないおじさんだけど、いざ仕事となったら歌手としてのプロ意識を絶対に曲げないキャラクターにしたかったんです。どんなにしょうもない営業現場でも「桜庭龍二です」とキメる。手を抜かない。歌う段になると、スッとプロの歌手の顔になるんです。
――歌うときの龍二には、プロの迫力を感じました。それにしても龍二の持ち歌『旅人』や振り付けは癖になりますね。一度観たら忘れられません(笑)。
高橋:あの振り付けは、自分で即興でやりました。『旅人』の音源は撮影の直前に渡されていたんですが、いざ本番に臨んだら長いイントロがついていて、どうしようかと(笑)。80年代にヒットした歌謡曲の設定だから、歌謡曲独特の振りをつけました。お客さんの心にフックをかけるような、キャッチ―な振りってあるんです。こういう感じの(と実演いただく。詳しくはこちらをぜひ!)。
30年のキャリアを支えた、自分の考えを持って失敗から 学ぶ姿勢
高橋:「え、もうそんなに経ったの」というのが率直な気持ちです。
本物を知る人、大人が見ても納得してもらえる仕事をしたいと、昔から思い続けてきました。いい仕事をしていれば、それがどんなに地味な仕事でも、必ず誰かが見ていてくれると信じてやってきました。
それでも若い頃は監督からも共演者からも怒られてばかりで、へこむことも多かったですね。
自分で「こうしたい」と思っても上手くできないし、信頼もないから、空回りすることも多くて。自分なりに考えて演じて、「ああやりすぎた、失敗した」と思うことはたくさんありました。それでも自分で「こうしたらいいんじゃないか」と考えることは、ずっと大事にしています。
何も考えずに演じるよりは、絶対にプラスになる。いろんなパターンの失敗をしては、素直に直すうちに、やってはいけないことが見えてきました。
――高橋さんが失敗だと感じたことで、例えばどんなことがあったんでしょうか。
高橋:僕の場合は、想いが強いだけに、やりすぎることが多かったんです。後から画面で見ると、暑苦しく訴えかけてくる自分がいて。だからなるべくシンプルな演技を心掛けるようにしていきました。無駄をそぎ落として、大事なものだけを残し、「これをやったら嘘だ」と思うことはしない。誇張するほど、リアリティから遠ざかるから。
それでも監督から「ここをもっとこうしてほしい」と言われたら、それは全部やります。僕はあくまで役者。どこを抽出したいのかを決めるのは、監督ですからね。
>>後編「信頼すれば突破口は見つかる/日本ボロ宿紀行|高橋和也さん後編」

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失敗から学ぶプロの強さ
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失敗から学ぶプロの強さ
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編集部チーム
PARAFT編集部
「仕事を一度引き受けたからには、プロとして絶対に手を抜かない」。龍二役を演じる裏側を話してくださった高橋和也さんから、インタビュー中に痛いほど伝わってきたのは、プロ意識の高さ、プロである覚悟でした。求められる仕事を完遂するために何が必要なのかを、妥協せずに追求するという、迫力に満ちた覚悟がそこにありました。
さて自分はと振り返ると、プロと名乗るにはまだまだ程遠い仕事ばかり……。「だって、頑張ったよね」と自分を納得させてしまう日頃の甘さに身の縮む思いで、いまもこの原稿を書いています。
さて、次回「後編」では、若い世代が悩みがちな“他人とのコミュニケーションの取り方”についても高橋和也さんに語ってもらいました!