新入社員研修の記事2020.03.31
コロナ禍のピンチをチャンスへ
緊急インタビュー/コロナ対策下の新入社員研修、どう行う?
keyword: 新入社員研修 リモート コロナ 集合 リスク
しかし入社する新入社員はもちろん、かつて経験したことのない状況で新入社員の受け入れを準備する人事の方々は、不安を抱えながら4月を迎えることになるのではないでしょうか。
そこでPARAFT編集部では3月末に、いまの状況でもできる新入社員研修の方法や、各社の取り組みの実際について緊急インタビューを実施。日本企業の人材育成に20年以上携わっている、アイディア社(IDEA DEVELOPMENT)代表取締役 組織人材開発コンサルタントのジェイソン・ダーキーさんに、人事の方や20年卒の新入社員の皆さん、そして彼らを待つ企業の皆さんにとって、きっと役立つノウハウや考え方を伺ってきました。事態は刻々と深刻さを増していますが、感染防止の制約をチャンスに変えることだってできるはず。工夫と発想の転換で、新型コロナウイルス禍の今を乗り越えましょう!
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【ジェイソン・ダーキー/JASON DURKEE さん プロフィール】
組織人材開発コンサルタント 1972年 米国シアトル生まれ。1992年に来日し、上智大学卒業。在学中より研修企画会社に勤務。インストラクターおよび開発を担当し、その後専任部長となる。 2003年に企業向け教育研修会社 IDEA DEVELOPMENTを設立。代表取締役に就任。 現在は、能力開発のコンサルタント・インストラクターとして上場企業および外資系企業などに対して人材育成サービスを提供する。 主な著書に『無理なく続く英語学習法』『ビジネス英語の技術』『ガツンといえる英語』(Japan Times 刊)。
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2020.03.31 文章 / 安藤 記子
前代未聞の事態に「新入社員教育ができない」!?
2020年度の新入社員の受け入れや研修を実施するにあたって、各企業が共通して直面している課題を教えていただけますか。
ジェイソン・ダーキーさん(以下、ダーキー):新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、例年行っている新入社員の”集合研修”が実施出来ない状況に直面しています。集合することそのものが、リスクの高い状況ですからね。そのため新入社員の受け皿がない、というのが各社の直面している課題です。
入社したばかりの新入社員を研修もなく、いきなり現場に配属するのは、現実には難しいでしょう。現場もテレワークの導入やコロナ対応に追われ、社会人や業界の基礎知識が身についていない新入社員を迎える余力はなさそうです。
やむなく新入社員たちに自宅で待機してもらうとしても、無為に過ごすことになっては彼らのモチベーションが落ちてしまいかねません。せっかく採用した優秀な新卒社員が早々に辞めてしまう事態は避けたいところです。
どうすれば新入社員たちをウイルス感染のリスクにさらすことなく、入社直後の時期を実のあるものにできるのか――。日々社会の状況が変わり、会社のコロナへの対応方針が厳しくなっていくなかで、人事担当者の方々は頭を抱えています。
――ダーキーさんもまた、この状況下で行う各企業の新入社員研修の準備を進められておられる最中だと聞きました。今年の新入社員研修は、実施方法や内容を変更せざるを得ない状況なのですね。
ダーキー:そうです。先日、新入社員研修について各企業の人事担当者にアンケート調査を実施したのですが、「新入社員研修の内容について変更があるか」という質問に対して、実に97%の企業が「何らかの変更を予定している」「変更済み」と回答しました。
実際に私たちも、各企業で新入社員向けの集合研修を実施する予定でしたが、集合研修はほとんどが取りやめとなり、違う形での実施を余儀なくされています。
――従来の集合研修ができないとなると、今年の新入社員研修はどんな内容になっていくのでしょうか。
ダーキー:大きく2つの傾向があります。
1つは時間の短縮や実施時期の変更です。例えば工場見学などの現場体験やチームビルディングといったプログラムは、集合や移動が避けられません。こうしたプログラムは延期や中止をすることになり、全体的な研修時間が短くなっています。
新型コロナの影響が大きい4月や5月は知識をインプットするプログラムを集中的に組んで、集合したり会話したりする必要のあるアウトプットプログラムをあとで実施するといった工夫も見られます。
もう1つはリモートでの実施です。
私たちが実施した新入社員研修プログラムでは、昨年まではリモート研修実施の割合はゼロでした。ところが今春は、リモート研修を全体の6割以上で行う予定です。
リモート研修は短く区切って行う!
ダーキー:今春の新入社員研修にあたって、研修環境別に大きくA、B、Cの3つのプランを考えました。
大切なのは、リモートといった手段から研修内容を構築するのではなくて、直面している状況から手段を選んで新入社員研修を考えるということです。
Aプランは、従来の数十人から数百人を一堂に集める研修を、人数を小分けにしたり、体育館のような広い場所で間隔を空けて行ったりすることで感染リスクを逓減させる研修プランです。全国に事業所がある企業なら、先に事業所へ新入社員を配属させて、サテライト方式で配信される研修を受講するという方法も考えられますね。
――このプランなら従来の研修とあまり変わらないので、実施するハードルも低そうですね。
ダーキー:そうですね。2月頃はほとんどの企業や私たちも、Aプランの実施を考えていました。ところがご承知のとおり、状況は大きく変わりました。
今年、多くの企業で実際に行われることになるのは、オンラインでリモート研修やeラーニングを行うBプランです。感染拡大を受けて人の移動や集合を極力避ける要請が強まっているためです。
――オンラインでの研修実施に不安を感じる人事担当の方は多いのではないでしょうか。
ダーキー:ええ、人事担当者向けのアンケートで、「リモート研修」で不安なことを調査したのですが、アンケートを回収し始めた2月下旬から3月初旬頃は「ネットワーク、IT環境」を心配されておられる方が多かったですね。
それが1週間も経過するとその悩みが減って、代わりに「インタラクション」と「成長・成果」について心配される方が多くなりました。当初の「新入社員用のデバイスを用意できるか」「ネットにつながるのか」「ビデオ会議のアプリを使いこなせるのか」などといった課題は、準備を進めるうちに解決できたということなのでしょう。
――「インタラクション」というのはどういうことなのでしょうか。
ダーキー:インタラクションという言葉にはさまざまな意味があるのですが、ここでは双方向性や同期間のつながりの醸成を指します。「リモート研修では受講する新入社員の反応が見えないのではないか」「新入社員同士のつながりが薄くなるのではないか」といったことを懸念される方が多いようです。
――リモート研修でインタラクションを実現するためにはどうしたら良いのでしょうか。
ダーキー:まずは研修プログラムを小分けに設計することです。研修を1日単位で考えるのではなく、90分の単元に区切って考えます。区切った90分のうち、半分の時間でインプット、もう半分の時間をディスカッションなどのアウトプットにあてた方がいいですね。特にインプットは15分程度に区切った方が、新入社員にパソコン画面に集中してもらえます。
それからアウトプットには行動のバリエーションを持たせましょう。チャットを使って意見を出したりまとめたりするために文字を入力する、メンバーや講師と話す、自分の意見をまとめて録音して提出してもらうなど、さまざまな方法が考えられます。インプット・アウトプット・講師からのフィードバック、というサイクルを細かくグルグル回していくのがポイントですね。
――フィードバックも大切なんですね。
ダーキー:はい。例えばグループ内で意見交換のチャットをしているときに、講師がそれぞれのグループを訪れてコメントをしていくなどすれば「ちゃんと見ているから大丈夫だよ」と新入社員たちに安心感を与えることにつながります。
――リモート研修を準備する上で、何かほかに押さえておきたいポイントはありますか。
ダーキー:リモート研修のメリットとデメリットを、しっかり認識しておくことでしょうか。
リモート研修では、入力した文字や会話の録音など、研修する側・受ける側双方の履歴が全部残るので、後から研修の振り返りをしやすいというメリットがあります。
一方でデメリットとなるのは、受講者側が脱落しやすくなるという点です。
――脱落とは、例えば授業についていけなくなるような状態ですか。
ダーキー:はい、理解や参加をあきらめてしまうような状態ですね。
オフラインの環境なら、数分ごとにインプットとアウトプットを切り替えられても脱落することはほとんどありません。研修のテクニックとして受講者を飽きさせないためにこまめに切り替えることはよくあるんですが、仮に切り替えについていけなくなっても、周囲の仲間や巡回しているサブ講師にヘルプを求めることができます。
ところがリモートでは講師が気を配っていても、受講者が脱落するリスクが高くなりやすいのです。画面越しであるがゆえの難点ですね。
ですからリモート研修のコンテンツでは、切り替えを少なめにしたり、解説はあらかじめビデオにして配信し、講師が受講者の反応をこまめにチェックしたりするなどの対策をしておくことが望ましいですね。
――なるほど。リモートの環境特性に配慮した準備が大事なんですね。では、Cプランとはどのようなものなのでしょうか。
ダーキー:これまで説明してきたBプランは、あくまで会社側でパソコンを貸与するなど、オンラインで受講する環境が十分に整えられた、いわばリッチなプランです。Bプランを採る企業の中には、新入社員に1日だけ出社してもらって、テキスト、Wi-Fiルーター、パソコンを配布する、という企業もあります。また新入社員の研修用にビジネスホテルを用意して、Wi-Fi環境や生活環境を整える企業もあります。
一方で、現場の社員へテレワーク用のノートパソコンを準備するのに手一杯で、とても新入社員まで環境整備ができないという企業も多いでしょう。とはいえ、自宅にWi-Fiがなく、パソコンを持っていない新入社員もいるはず。しかし出社させるのは難しい……。そんな状況下での研修の用意がCプランです。
スマートフォンの使用を想定し、速度は遅くても良いので動画が少しは見られる程度の環境があれば、自己学習を中心に進めてもらいます。学習の前後に電話などで進捗を報告してもらい、それをフォローすることで社会人としての行動パターンに少しでも慣れてもらうという内容を、新入社員研修の最終手段として考えています。
――動画やオンラインの学習素材を用意して、新入社員自身のスマホでアクセスしてもらうんですね。これなら、どんなに困難な状況になっても、なんとか対応できそうですね。
ダーキー:そうですね。BプランやCプランで提供するオンライン用のコンテンツ(教材や動画)は、私たちアイディア社でも準備して提供していますし、企業内部で準備することもできるでしょう。
時間が限られる中での動画づくりは負担が大きいでしょうが、研修の中身を見直す良いきっかけとなるかもしれません。
Cプランなら、この先外出禁止となった場合でも実施できます。こんな風に環境ごとに研修プランを想定しておくだけでも、人事担当の方の精神的な負担はずいぶん軽くなるのではないでしょうか。
“リモートワークネイティブ”の新入社員が現場に良い効果をもたらす
ダーキー:そうなんです。従来の研修は、例えば研修場所へ移動して2日、3日の限られた時間内で多くの知識を詰め込もうとするインプット型の研修が多く、学んだ知識をどう使おうかというアウトプットまで行きついていないというものが多くありました。
地方にいる社員が東京本社へ研修のために出張してくる、といったケースでは、せっかく来たのだからと丸一日ぎっしり研修内容を詰め込もうとしがちなんですね。
ところがリモート研修ならば移動がありません。そこで、習ったことをすぐに現場で試せますし、出来なかったことを来週またやってみることもできます。もったいないからと詰め込むこともなく、短時間で済むので受講する側の負担も軽くなります。
もともと人事の方々も、いずれは人材研修をリモートで実施することになるだろうと考えていたはずなんです。それがリモートへとシフトする動機づけがないままに、従来の集合研修型でやってきていました。
新入社員研修を従来とは違った方法で実施することで、従来型からリモートへのシフトが進む側面も期待できるでしょう。
――”インタラクション”という面は、リモート研修であっても特に問題がなさそうですね。
ダーキー:20年卒の新入社員はオンラインのさまざまなツールを使いこなして人間関係を構築することに、我々よりもずっと長けた世代です。
放っておいてもLINEやインスタグラムで、あっという間に同期どうしで交流しています。ただSNSでのコミュニケーションが進みすぎることで、入社前なのに人間関係が上手くいかなくなるといったトラブルも出ています。
人事の方としては「朝と夕方のホームルームを固定して設けて、彼らの状態を確認する」「チームを固定せずにいろんな人と接する機会を設けるようにする(例えばオンライン飲み会を催してみる)」といった工夫が、”インタラクション”のためにも大切だと思います。
――なるほど。入社してすぐに行動をともにする同期たちの存在は、社会人生活を送る大きな支えになりますよね。
ダーキー:そうです。新入社員研修は単なる勉強の場ではありません。同期との仲間意識や「この組織にいたい」という会社への帰属意識を育て、学生から社会人へと態度変容させて組織の一員としてのベースを整えるのが、日本企業の新入社員研修の大きな目的となっています。
ですから、何が何でも従来型の研修の実施にこだわる必要はありません。
例えばテレワークを実施している今、現場のニーズが高そうなテレビ会議の議事録の作成など、組織に役立つミッションを与えることだって考えられます。ミッションを通して彼らが組織に貢献していると実感できれば、新入社員研修の大きな目的は果たせます。
今のタイミングでフルコースの新入社員研修を実施する必要があるのか、見直してみてもよいかもしれません。
――この逆境下で、従来とは少し違ったスタートを切る20年卒の新入社員。先輩社員や会社からの期待も大きいかもしれませんね。
ダーキー:そうですね。この状況を見るにつけ、1990年代にアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)という会社が実施した取り組みを思い出します。
90年代の当時は、どの企業でも偉い人ほどパソコンを自分で使わず(使えず)に、部下に操作や資料作成をまかせる風潮がありました。
そんな中でGEは“逆メンター”という取り組みを社を挙げて行いました。どれほど役職が高くても自分でパソコンを扱えるようにと、”パソコンネイティブ”の20代の若手社員が50代の上司のメンターとなるというのが、“逆メンター”です。その結果、WordやExcel、PowerPointといった基本的なソフトを管理職が自分で扱えるようになりました。それが奏功してGEは偉大な企業と目されるまでになったのです。
今春の新入社員は、入社初日からリモートワークを行う“リモートワークネイティブ”です。彼らが研修期間中にリモートの達人となってもらえれば、社内でそのやり方を広げるとか、上のメンバーに教えてあげるなど、組織変革にもつながる新入社員となる可能性を大いに期待できます。
――“リモートワークネイティブ”とは、まさにその通りですね。彼らが社会をどのように変えていくのか、今から楽しみです。
ダーキー:ただ20年卒の新入社員は社会情勢の見通しもつかないままに、いきなり在宅勤務から社会人生活が始まったりします。これまでの新入社員とはまったく違うスタートを切ることに、一番不安を感じているのは彼ら自身です。
人事担当や配属先の上司・先輩社員には、ぜひ新入社員たちの心のケアをしっかりとしながら育成を進めていってほしいですね。
企業や日本の社会全体にとっても、新型コロナウイルスに余儀なくされるさまざまな働き方や研修方法の見直しは、長い目でみれば大きなチャンスとなるはずです。いまは苦しくても、より効率の良い働き方を生み出せる機会ととらえ、できるだけポジティブに取り組んでいきたいものです。

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フリーランスライター
安藤 記子
東京に外出制限が出るかもしれない――。満員電車に乗るのが本気で怖い――。東京の外出制限もにわかに現実味を帯びてきた昨今、コロナ対策の一環として、4月から新生活をスタートさせる新入社員の受け入れは、各企業で急展開を見せています。かく言う筆者もかつて新入社員として集合研修を受けた一人。社会人の第一歩となる研修や4月・5月の過ごし方は、社会人の基礎をつくることになります。多くの人事の方や新入社員、また現場で迎える社員の方々は大変困っているのではないだろうか。そう考えて、研修準備に追われるダーキーさんへ、今回緊急取材をさせていただく運びとなりました。この記事で紹介するノウハウや考え方を読んで、少しでも多くの方が4月を明るく乗り切れることができたら幸甚です。